週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
いずれ、化粧品の一大有名成分になるというお話
聞いたことのないユーザーさんにとっては、カタカナですし化学名っぽくてピンとこないと思います、この成分の名前。
でも、天然成分ですし、実は生体にとってかなり重要な成分。
しかも、皮膚にかなりの量で存在しています。
ただ、シミだとかシワだとか、効能を明確に絞り込めないので有名になりきれないだけのことなんですよね。
本来は色々とノウハウがあるのであまり公言しない内容なのですが、もう私自身も技術者人生が長くはありませんので、今回はそろそろユーザーの皆さんに拡散すべきと判断して記事にしてみます。
この記事の目次
レシチンとは
レシチンは“卵黄レシチン”や“大豆レシチン”と呼ばれるのをご覧になった方もおられる通り、生物にたくさん含まれる天然成分です。
卵黄は動物ですし、大豆は植物ですので、動植物を問わず広く自然界に存在しているキー成分ということになります。
もちろん人間にもたくさん存在しており、その量は全体重の1%とされていますので、60kgの体重の方ならばなんと600gも存在していることになるのです。
しかもレシチンは、体内にある全ての細胞の膜を形成している物質ですので、カラダのあらゆる機能と関係していることは説明の必要もないほど、重要な成分ということですね。
ちなみにレシチンは「リン脂質」と呼ばれる脂質の一種ですので、油性の性質が強い成分ということになります。
ただしそれだけではなんら重要性はなく、実は脂質と呼ばれているのにも関わらず水とも親和する部分を構造中に持っていて、いわばまるで界面活性剤のような働きを持っている特別な成分なんですね。
それは実は皆さんも日常の中で目にしていて、マヨネーズがこの機能を利用して作られ、油分と水分が乳化状態になっているレシチンによるエマルジョンというわけです。
しかもこれはレシチンを多く含む卵をそのまま使っていますので、まさに天然素材によるエマルジョンということになります。
あらかたのレシチンの説明はこんな感じですが、ならばこれを化粧品に活用することでどんなことが期待できるのか、そんな話題に入っていきます。
乳化剤として
まず、皮膚への美容的な有効成分としてのお話に入る前に、化粧品を設計する上で重要な機能性成分としてのレシチンの利用解説をしていきましょう。
というのも、基本設計に利用するということはいわば屋台骨ということになりますので、当然のことながら皆さんがよく心配される“配合量”が非常に多いということに繋がっているからです。
つまり、よくコスメ市場で有名になる美白やアンチエイジングなどの有効成分は、結局のところ配合量が分かりませんので、どれが本当に効果があるのか分からないということになりますが、こうした目的で使われているとそのような心配が無用になるということですね。
では、レシチンは化粧品を設計する上でどのような目的で使うことができるのでしょうか?
もうお答えは上で書いてしまっていましたね(苦笑)
そう、それは界面活性剤の代わりとしての利用です。
乳液・保湿クリーム・下地クリームなど、乳化になったコスメはたくさんあります。
他にも化粧水に香りをつけるには油性成分である精油や香料を配合しなければなりませんので、これを溶かすのにも利用できます。
さすがにレシチンで洗顔やクレンジングといった汚れやメイクを落とす性能に期待するのはムリがありますが、それ以外のところでは大いに可能性を持っているというわけです。
そしてなにより!
化粧品の価値は皮膚なじみや浸透性がよく課題になり、いくらたくさん塗布しても浸透しなければ角質層や皮膚に効果は得られないとよく言われますが、上で界面活性剤のような性質と書いた通り、レシチンはお肌への浸透性が非常に優れていますので、化粧水や美容液でも配合するだけで格段に美容効果があがるということになります。
つまり、天然のブースター成分というわけですね。
というわけで、レシチンを乳化剤の代わりとして使うことができれば、これまでの乳液やクリームのように合成界面活性剤の有無など全く気にする必要がなくなり、むしろお肌にとって有効な界面活性剤ということになります。
さぁ、こうなると今からでも手元にお持ちの乳液やクリームを裏返して探したり、ネットで成分検索を掛けてみたくなると思いますが。
残念ながら、今までこのレシチンがそこまで有名になれなかった理由はココにあり、簡単に誰でもがポンと入れてポンと乳化ができる・・・そんな容易な使い方で設計が達成できる成分ではない、研究者として実に難易度の高い成分なのです。
それだけに、これが達成されている化粧品をみつけることができれば、間違いなくそれは技術力の高い付加価値のあるコスメということになりますし、ブランドバリューとして裏切られることがないと言えます。
昨今は結構な製品が出てきていますので、頑張って探す価値は十分にあると思って間違いありません。
いや~、もうここまでの解説でも十分にこのレシチンが素晴らしい成分であることは感じてもらえたと思いますが、まだまだユーザーの皆さんが期待していい性能はこんなモノではありません。
皮膚への効果
さて、成分として有名になれるかの問題は、この部分でしょう。
もっとも知られている効果としては、脂肪燃焼による代謝の促進効果でしょうか。
これは“レシチン”という成分名では分かりにくいのですが、「フォスファチジルコリン」と言えばピンとくる方もおられることでしょう。
そう、美容皮膚科で小顔効果に期待した注射施術に使用される薬剤がこの成分で、化粧品に使われるレシチンにたくさん含まれているのがこの薬剤成分です。
つまり、皮膚科に行かなくてもこの効果に期待ができるということになります。
もちろん、ダイレクトに注射で薬剤を導入するような即効性はありませんが、最初に解説したように化粧品設計の骨格に使用できますから、他の美容成分のように配合量で不安になる必要がありません。
ただ、これだけ煽っておいて怒られそうですが、化粧品の製剤に使われているレシチンはリン脂質の混合物ですので、全て有効成分のフォスファジルコリンだけではないことはお伝えしておきます。
使われている原料によって含有量は10%程度からほぼ100%のものまで様々で、成分名からは推測できませんが、有効成分として極微量ではないことは確かと言えます。
それとここで解説しておきたいのは、成分としての浸透性能です。
いわゆる美肌に期待される有効成分は、きちんと角質層の深部に届くのかよく取り上げられますが、レシチンに関してはここがもっとも優れいてるところです。
それは皆さんもご存知の、「リポソーム」という医薬品の世界で活用されているドラッグデリバリーシステムのメイン素材が、このレシチンでできているからです。
もともとリポソームが皮膚の真皮層や血管にまで浸透するメカニズムのカギが、このレシチンの細胞膜との親和性にありますので、浸透力が高いのは当然の理屈なんですね。
ですので、注射による直接注入とはいきませんが、継続して使い続けることでしっかりと角質層深部に定着してくれていくというわけです。
そしてアンチエイジング
ここまで、レシチンという成分がもっと着目されるべきお話をしてきました。
でも、実はもっと注目されるべきなのは、お肌のコンディションを整えるのに重要なバリア層、そしてさらには細胞そのものの健康をフォローしてくれるのがリン脂質だという点です。
セラミドがこれだけ注目を浴びているにも関わらず、実際にはこれが皮膚のラメラ層で維持されるもっとも重要な役割りを果たしているのはリン脂質という点に目を向ける必要があるのは、当然のことと言えます。
つまりレシチンはセラミドとともにバリア層を補強してくれるというわけです。
それはイコール、アトピーの改善にも繋がることになります。
これは実は私達が保湿効果のエビデンスを採取した際に証明されており、明らかに塗布することでレシチンだけで皮膚のバリア性能があがっていくことが確認できています。
これは誇張ではありません。
皮膚のバリア能の試験をする際には、塗布後に洗剤で皮膚を洗浄してから測定しますので、他の成分の影響は受けていないからです。
つまり、グリセリンやヒアルロン酸・油分といった、コスメ塗布した際に表面に存在する保湿成分は全て洗い流されますので、レシチンそのものがバリア層に定着したことが証明されているということなんですね。
さらに細胞の膜そのものもリン脂質で作られていますので、細胞そのものが強化され、さらに新たな細胞が作られる手助けになることは明確なことですね。
レシチンは、老化でうまくいかなくなっている皮膚細胞の再生の手助けをしてくれるのは、間違いないと言えます。
まぁ、少なくてもレシチンは界面活性剤のように油性の部分と水性の部分との双方の構造を持っていますので、単に角質層の深部にまで届いてくれる保湿成分としても非常に優れていることだけでも、十分に利用されるべき成分でしょう。
これらを総合的に考えると、レシチンはもう化粧品の有効成分と言って良いと考えるのが、今回の話題の根幹でした。
と、それから最後にフォローしておこうと思いますが、「卵黄」や「大豆」と見るとアレルギーの心配をされる方がおられるかもしれませんが、その心配は無用です。
アレルギー物質はタンパク質成分が原則ですので、リン脂質はこれら脂質(油)成分ですからアレルギー物質は含んでいません。
卵のアレルギー物質は白身に含まれていることからも、それは分かりますね。
以上、最初に触れたように美白やシワ改善といった明瞭で分かりやすい決めゼリフで成分の効果を言い表せないことがメジャーになり切れない一因と思いますが、皮膚にとってあらゆる効能に繋がっている万能な成分という意味では、レシチンは決して見逃せない成分と言えるでしょう。
レシチンがスキンケアコスメのあらゆる設計成分としてしっかりと応用され、それがお肌のコンディションをしっかりフォローしてくれることを考えれば、ここを意識したコスメが業界に広がることに期待しますし、それが付加価値の高い化粧品としての地位を確立できるように思います。
今週はここまでにしておきましょう。
ではまた次週。
by.美里 康人