週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
これってアルコール?
以前にもアルコールとはなんだろうといった解説をしてきましたが、今回はその中でも比較的市販コスメによく使われて、ユーザーさんの誤解を招きやすい成分をとりあげて何者なのかといった説明をしていきたいと思います。
この記事の目次
高級アルコールの復習
最初にまず、化学の世界における“高級アルコール”という用語の定義を復習しておこうと思います。
手指の殺菌剤などによく使われて、ユーザーの皆さんにもなじみの深い「エタノール」は溶剤としての性質が強いアルコールで、こういったアルコールは「低級アルコール」と呼ばれて、前にも見て頂いたようにC(炭素)骨格の長さ(数)が少ないアルコールのことを指しています。
忘れちゃったとおっしゃるムキは、以前の分かりやすい解説記事をご参照下さい。
■“アルコール”を正しく呼ばないか
https://cosmetic-web.jp/column/alcohol/
というわけで、このエタノールはC(炭素)の骨格が2個ですね。
そしてこれに対して、もっと数が多く骨格の長い(炭素の数が多い)アルコールを「高級アルコール」と呼んでいます。
おおまかには、このC(炭素)の数が6個以上の長さのものが高級アルコールとされています。
ただし、前回はBG(ブチレングリコール)やグリセリン(グリセロール)もアルコールの仲間だと説明し、BGはCの数が4個、そしてグリセリンは3個ですので、これも低級アルコールとなりそうですが、これまた以前にも書いたようにこれらは2個以上の複数のOH(ヒドロキシ基)がついた“多価アルコール”ですので、この“低級”や“高級”の中には含まれません。
つまり、OH(ヒドロキシ基)が1価のアルコールに限って区分けがなされています。
とはいえ、この定義はきちんと境界線が定められた厳格なものではなく、一般的には「固形状を形成(ワックス状)するアルコール」を高級アルコールと呼んでいることが多いです。
以前の解説でもこのC(炭素)の数が多くなって骨格が長くなると油の性質がどんどん強くなると書きましたが、12個を超えたあたりからもう常温では固まって固形状になってきますので、このあたりをボーダーラインとして高級アルコールと呼ぶことが多いと言えそうです。
ちなみに化学分野で定義されているこのC(炭素)の数が6個あたりから水にはほとんど溶けなくなりますので、ここを基準にして低級と高級に分類しているとされています。
セタノールとは
さて、小難しい解説はこれくらいにして、化粧品でよく使われるセタノールとはどういったもので、どんな目的で使われているのかのお話に入っていきましょう。
とはいえ、もう少しだけ引きずりましょうかね(笑)
もうこれだけ化学記号の“C(炭素)”を何度も書いてきましたので、さすがにユーザーの皆さんも覚えてしまったのではないでしょうか(笑)
これは非常に良いこと(勝手に・笑)と思いますし、なぜならこのC(炭素)が含まれている化学成分をひっくるめて「有機物」と呼び、それ以外の成分を「無機物」と呼んで分類されていますので、大手をフって「有機物とは?」と問われた時に答えられるからです。
そう、身の周りの火がついて燃える物質はすべて有機物で、最後には炭(すみ)になった炭素(C)になりますので、“有機物=燃える化学成分=炭素(C)を含む成分”と覚えれば良いというわけですね。
そう、紙や木や植物、そしてプラスチックや燃料も全て燃えますので、有機物と覚えておけば良いかと思います。
さすがにもう読み疲れてきたでしょうから、化粧品のお話をしましょう。
掲題のセタノール、全成分をみると非常によく見かけると思います。
一例として、大手ブランドさんのオーソドックスなコンディショナーの全成分です。
K社)
水、セタノール、ジメチコン、ベヘントリモニウムクロリド、グリチルリチン酸2K、エタノール、パルミチン酸イソプロピル、ビスメトキシプロピルアミドイソドコサン、スクワラン、BG、ジアルキル(C12-18)ジモニウムクロリド、クエン酸、ユーカリ油、オレンジ油
P社)
水、セタノール、ステアラミドプロピルジメチルアミン、ステアリルアルコール、ビスアミノプロピルジメチコン、クオタニウム-18、香料、ベンジルアルコール、ヒドロキシプロピルグアーガム、セテアリルアルコール、ステアリン酸グリセリル、ポリソルベート60、クエン酸、EDTA、PG、オレイルアルコール、硝酸Mg、キウイエキス、キンカン果実エキ、イチジク果実エキス、黄4、メチルクロロイソチアゾリノン、塩化Mg、メチルイソチアゾリノン、青1
こうして、昔からヘアケア製品のヘアコンディショナーのベース成分としてよく使われています。
お手持ちのコンディショナー(洗い流すタイプ)の全成分をみて頂けると、スキンケアアイテムのグリセリンなみに高確率でみつけられると思います。
これほどよく使われるのには製剤上の理由があり、スキンケアアイテムに比べてうんとコスパが必要なアイテムですので、この成分を応用すると簡単にクリーム状にすることができるノウハウがあることによります。
なので、水の次あたりの高配合でよく使われています。
界面活性剤ではありませんが、界面活性剤の性能を増幅させてくれてなおかつトロミが比較的カンタンに付与できますので、水分が多くて濃度が薄い設計でもクリーム状にしやすいのがこの成分の特徴です。
いわばオイル成分が配合された乳化製品の、“乳化助剤”という使用用途になります。
他にもボディケアやハンドケアといったコスパが求められる製品にもよく使用されますね。
それはこのようなデータが示してくれます。
いつものように「Cosmetic-Info」様のサイトを活用して検索をかけると、分かりやすいです。
リンク先:Cosmetic-Info.jp
スキンケア
1,098件
ヘアケア
2,897件
そして、これと混合物となった成分「セテアリルアルコール」もありますので、それがこの数字。
スキンケア
949件
ヘアケア
1302件
ヘアケアはほとんどがコンディショナーやヘアクリームと、アイテムが限定されていますのでかなりの偏りと分かります。
コンディショナーは洗い流してしまう製品ということで、比較的よく使われています。
スキンケアの場合は油分が多かったり合成ポリマーがよく使用されますので、処方に工夫を凝らせばさほど必要性はなく、あまり頻繁に使われていません。
でも、スキンケアへの使用が少ないのはなぜでしょうか。
それはこのコスパの問題以外にも、もうひとつ理由があると言えそうです。
スキンケアに使われる頻度が少ない理由
上記でも説明したように、この成分は非常に乳化製品の処方設計に使いやすくのにも関わらず、スキンケアに使われることが少ないもうひとつの理由について触れておきましょう。
それは割りと単純なことで、2,001年に廃止された「表示指定成分」の中に含まれていたためです。
現在の全成分表示が必要になる前の制度ですので、もうご存知の方も少なくなりましたが、以前はお肌にリスクを持つ成分として指定された成分だけをピックアップして表示する必要があり、そのリストの中にこのセタノール・セテアリルアルコールが含まれていたことが原因と想像されます。
当時はパラベンもこの中に含まれていました。
つまり、いまだ昔の表示指定成分を避けるユーザーさんを意識してのブランドコンセプトが多いことと、分かります。
コンディショナーの場合はコスパの制限がありますので使わざるを得ない理由が明確ですが、パラベンと異なってスキンケアコスメの場合はマイナス要因のこの習慣を避けることはさほど難しくないため、使用頻度は少なくなっていると言えます。
では、このふたつの成分が表示指定成分に指定された理由と、今もなお避ける必要性があるのでしょうか。
この疑問に触れてこの話題を終わりにしたいと思います。
セタノールは危険なのか?
もともとセタノールが表示指定成分にリスト入りしたのには理由があり、私達の年代の頃のこの成分は鯨蝋(くじらのロウ)から作られており、その頃は不純物が多くて皮膚に浸透しやすい低分子の高級アルコールがそこそこ含まれていたことが、その原因です。
そう、昔のワセリンと同じような理由と考えて頂ければよいでしょう。
もう現代では鯨蝋は使われていませんし、ワセリンと同じように精製技術もうんと進歩したため、昔のような不純物はほとんど含まれていませんので、今ではそういった心配をする必要はないでしょう。
大手ブランドさんでもスキンケアアイテムにも使われていますので、そのような懸念は不要です。
ただ、これをどう考えるかは開発技術者の方々の考え方次第と感じます。
特に心配することはないから、気にせず使うのか?
ここは是非の問題とは別に、使わないで事足りるのであればあえて選択しなくても良いように感じます。
時代の進歩とともに新しい時代のコスメを探究するのならば、昔ならではの技術から進化する必要性を感じてしまうのですね。
もちろん、大手ブランドさんにように最後の品質安定性の維持のために少し使っておくというのはアリと思いますし、その場合は皆さんもみて頂ければおわかりの通り、表示成分の後ろの方にしか配置されていませんので、そういった用途は今後も残っていくことと思います。
最後になりましたが、せっかくなので以下は私の経験則からの一言になります。
他では触れられない事実を書いて、終わりに致しましょう。
本当に私達化粧品工場に供給される原料としてのセタノールが、全て問題ないと言い切って良いのでしょうか?
もちろん、ワセリンと全く同様に、日本の精製技術を駆使した医薬品クラスの高純度原料は、ユーザーさんに信用して頂いて良い品質と言い切って良いでしょう。
しかしながら、化粧品に使われている全ての原料グレードが”コレ”というわけではないのが現実と言えます。
大手ブランドさんならあり得ませんが、中小の工場さんの中にはコスパを重視して輸入原料をお使いの化粧品工場さんもあることでしょう。
実際に、輸入原料を触ってみるとそれは明確に判断できます。
ワセリンも含めてオイル成分は、加熱することでその品質の簡易判断ができます。
つまり、低い温度で揮発する低分子成分が含まれていると、加温することで判定できるのですね。
事実、コストのお安い輸入セタノール・セテアリルアルコールは、80度まで加温すると刺激臭が発生し、国産原料とは明確に異なることを確認しています。
そもそも使用する成分としてはたいした配合量ではなく、それがお肌にとってどれだけリスクになるのか?という問いへの答えは重々承知していますが、そんなこんなを思慮すると、洗い流す製品のコンディショナーなどはまだしも、リーブオンアイテムにあえてこの成分を使う必要性は如何に?と考えるのが私達の思いというところで、今回の記事の筆を置くことに致します。
とりもなおさず、ツッコミどころを残すのをただ単に好まないだけのマニアックな美里ということで、生暖かく見守ってやって下さいませ。
ではまた次週。
by.美里 康人