化粧品開発のご相談はビークラボへ >>

ピコ 浸透・・・ 何を言ってるの?

ピココスメ

週一で仲間ブログの記事も更新されます
チガウがワカル!? 新米コスメ技術者のドタバタ奮闘記

週3で異なる目線の美容記事をお届け


美里康人

ピコ“という言葉がよくみられます
ならばどうなの?というお話

これまでもこちらのブログでは、成分の浸透についてたくさんの解説を記してきました。
例えば分子量問題やナノコスメについて、ヒアルロン酸やコラーゲンの分子サイズについても詳細の解説をしてきています。
そして皮膚浸透のボーダーラインのお話も、詳しくお話しています。

そんな中で、昨今はこんな言葉を目にすることが多くなりました。

「ピコ」

この言葉の使用目的は、この業界の慣例とも言えるだから皮膚の深部に浸透しやすいんですよー“感のアピールであることは、漏れなくのことでしょう。
今日はその意味について解説していきます。

ピコとは何だ

以前にもアミノ酸についての解説のところでこの「ピコ」という単位を持ち出しましたが、あらためてきちんと説明しておきます。

ピコは大きさや長さの単位で用いられ、メートルやセンチメートルと並んで用いられる大きさの単位のことです。
具体的にはこうして小さくなっていきます。
チェ!小学校じゃないんだから・・・とおっしゃらず、復習を兼ねてご覧下さいね。

km(キロメートル)

m(メートル)

cm(センチメートル)

mm(ミリメートル)

μm(マイクロメートル)↓

nm(ナノメートル)

pm(ピコメートル)

ほら、意外と知らなかったことも入っていますでしょ?
例えばmm。 これは、つい”ミリ“と口走っていると思いますが、正式には”ミリメートル“で必ず”m(メートル)“を付けて呼ばないといけません。
でないと、これらの単位はほかの単位系にも用いられますので、文字にして記述する時に恥ずかしい思いをすることになってしまいます。

例えば重さの単位は「g(グラム)」。
この下は1/100の”cg(センチグラム)“なんていうことになりそうですが、それは全く使われずいきなり”mg(ミリグラム)“になります。

そしてm(メートル)からmm、μm、nm、pmと1/1,000ずつ下がっていくと覚えておけば簡単です。
数字を書く時には”,(カンマ)“をつけると思いますが、このカンマの位置が1,000の単位ごとに付けますので、カンマの数だけ小さくなっていくと覚えておけば楽勝です。
m(メートル)に対して

mmは1/1,000
μmは1/1,000,000
nmは1/1,000,000,000
そしてpmは1/1,000,000,000,000

ということになりますね。
読み方は、いちじゅうひゃくせんまん・・・数えてみて下さい(笑)

とりあえず、ピコとはナノのさらに1/1,000と覚えておきましょう。

ピコを謳うコスメ

さて、めんどくさいお勉強はこれ位にして、早々に今日のお題の”ピコという単位と皮膚浸透の問題“について解説をしていきましょう。

ここ数年の化粧品の宣伝で具体的にこの単位が謳われたのは、2パターンがありました。

 1)ピコアミノ酸
 2)ピコ化カプセル

1)については、ヘアケア関係の大手ブランドさんがTVCMでも宣伝しておられましたが、どちらの製品かは触れないでおきましょう。
2)はピコという言葉が付けられた製品名が存在しますので、ちょっと調べれば判明してきますしここで特定するのは避けておきます。

で、それぞれに簡単にどういう意味かといえば、ピコアミノ酸はそのまんまでピコ化されたアミノ酸という意味でしょう。
ピコ化されたカプセルというのは、ナノコスメによく使用されているナノサイズのDDSカプセル”リポソーム“よりさらに小さい浸透技術ということのようです。

ここまでの解説で、ほぉ、ナノよりさらに小さくされていて、浸透しやすそうな凄い技術!というメカニズムで理解してしまう方が大半と思います。

でもコレ、こちらのブログをご愛顧下さっているユーザーさんであれば、既におかしいことに気付いて頂かないといけません。
そう、既にこちらの過去記事に大きなヒントがあったのです。

何がピコなのかきっちり言ってくれ

これだけの膨大な記事数になると簡単に思い出すのは困難と思いますので、コチラ。

“ナノ粒子がアブナい!”の真実とは
https://cosmetic-web.jp/column/nanoparticles/

そう、実は過去の記事でアミノ酸の実際の大きさをこちらで解説しています。
その分子の実際の大きさは、およそ0.2nm(ナノメートル)
ということは上の解説を引用すると、200pm(ピコメートル)ということになります。
美里が適当なことを書いているのでは?と疑問を抱かれた方は、化学の文献をググってみられて下さい。
私なんかは足元にも及ばないエラい学者様方によって、きちんと解明されていますので。

となると、おやおや・・・これはどう解釈すれば良いのでしょう?
どういう意味かと言うと、以下です。

 1)ピコアミノ酸

一個の分子の状態でもともとが約200ピコです。
え? さらに分子を壊しちゃったの???
それって、もうアミノ酸じゃないじゃん!
っていうお話なのです。
まだ意味が不明な方には、こういうことです。

アミノ酸の分子構造がバラバラになり、NとかCとかHとか・・・え?え?え?

普通に皆さんがお使いのコスメの全成分をご覧になると、よくアミノ酸が配合されていますね。
グリシンだとかアルギニンだとかセリンだとかグルタミン酸だとか。
これ、すでにいずれもピコサイズの分子構造で配合されているということになるわけで、これよりも小さくしようがありません。

いったいどういう意味だったのか、私にも分かりません。
おそらくは企画の方がよく化学のことも分からずに、宣伝文句を考えたのでしょうね。
まぁ、実はさらに深い化学の分野のお話では、分子は水の中で単分子状態で存在するのではなくて、いくつかの複数の集団で固まっているといったコロイド粒子の諸説があったりするのですが、少なくても化粧品メーカーさんがそのような化学の真相説に踏み込んでCMを作成したとは思えず、なんとも摩訶不思議なうたい文句でありました。

 2)ピコ化カプセル

もうこれまでの解説ですでにお気づきでしょう。
単分子よりも小さくした、成分浸透技術のカプセル???

ピコサイズのカプセルの中に入れることができる成分って、いったいなんなのでしょうね。
アミノ酸さえもその大きさですから、これより大きな分子の成分は入りようもありません。 例えばヒアルロン酸もコラーゲンも、何十倍も大きいですし。
オリゴペプチドといったヒト幹細胞系もアンチエイジング成分もすべてアミノ酸の数倍以上。
ビタミンC誘導体にしたところで、アミノ酸と同じ程度かそれ以上。
しかも1個でこの大きさですから、1個1個の分子をカプセルに入れたということ?
なんとも、おもちゃ箱に積み木をいくつ入れられるか?なんてお話じゃないのですから・・・

このような言葉遊びを、もっともらしく図式化したメカニズム解説も入れて化粧品の宣伝に用いてはいけません。
虚偽どころのお話ではありません。

ピコって見えるの?

で、せっかくなのでちょっとここで脱線しましょう。

ナノサイズのお話は、例えばリポソーム粒子を撮影した画像や映像をコーセーさんがHPで公開されている通り、電子顕微鏡を使えば捉えることができます。
私達も、自社で作成したオリジナルリポソームの撮影に成功しています。

オリジナルリポソームの画像1

といっても、何千万円もする電子顕微鏡など自社で持てる企業ではありませんので、試験機関にて撮影して頂いたものです。
これで100ナノの世界ですので、まだまだピコのレベルには及びません。

ならば、ピコの世界を覗き見ることって可能なのでしょうか?
できもしないのにあたかもで論じるのって、なんだか卑怯ですしね(笑)

で、コレ。
電子顕微鏡

引用はこちら。
東京大学-日本電子40.5pmの電子顕微鏡世界最高分解能を達成
https://www.jeol.co.jp/news/detail/news_entry_file/file/news_20170831_u-tokyo.pdf

なんだか凄い規模の機械ですね。
気になるお値段ですが、およそ80ピコを認識可能な電子顕微鏡で3億円とされていますので、これを商業レベルに乗せれば数億円は下らないのは間違いありません。

とまぁ、このような分野のレベルのお話なので、化粧品メーカーさんが開発したとされているピコサイズのお話なんて、しっかり検証された技術と考えて良いかどうか判断がつきそうです。

そうだよね、な総括

というわけで、理屈をこねくり回して解説してきましたが、もっと結論的なことにユーザーの皆さんはすでに気付いておられるかもしれませんね。
そう、皮膚浸透のボーダーラインに「分子量が500程度」という学説があったことを思い出された方も多いでしょう。
ピコにしている“だのと懸命に宣伝されていますが、アミノ酸がこの分子量の半分程度(200あたり)で既に浸透のボーダーライン以下ですね。
ということは、成分それぞれが分子レベルで浸透するかしないかのピコレベルのお話なのですから、ピコにするだのという宣伝はもうおかしな次元と、照らし合わさないといけません。
分子を壊すのか?という、分子構造を変えてしまう問題なので。
ようはもともとの分子がピコサイズなのであれば、そのまま配合しちゃえば良いという結論となりますね。
そして壊してしまえば違う化学成分・・・というお話で。

とはいえ、ピコにした成分!と言っても過言とは言えない成分も、ないわけではありません。

例えばヒアルロン酸
普通は何千個も連なっていて高分子ですから、当然分子量も何十万以上でサイズも分子のレベルですでにナノサイズ。
で、ヒアルロン酸のお話を以前にも書いた通り、もともと1分子の分子量は400程度ですので、これだとピコサイズ
なので、2分子レベル程度まで分断してあげればピコと言って良いサイズに収まる範囲で、決して過言とは言い切れないストーリーとなります。
これは他にはコラーゲンなども同じで、どんどんペプチド(タンパク)を切っていってアミノ酸が数個レベルまで小さくしてあげると、なんとかピコクラスで収まるピコペプチドなんてのもあり得ます。
このようなストーリーで製品の技術PRをして頂けるのであれば、まだなるほどねと期待を持てる化粧品になり得るのですけれど。

う~ん・・・でもそうはいっても、これだとそのままその単分子で配合してやった方がお安くてもっとも小さいのでは?
そんな疑問が出ても、当たり前の話ですね。
ペプチドならシンプルにアミノ酸、ヒアルロン酸ならアセチルグルコサミンとグルクロン酸。
もう失笑しか出ない屁理屈に付き合いたくはありませんので、この辺で置いておきましょうか。

なんとも人を食ったような、ユーザーさんが単位のことに詳しくないことを利用した宣伝口上という顛末でした。

ではまた次週。

by.美里 康人

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です