週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
この背景には様々な問題が存在しています
前回、ヤシ油と呼ばれている植物油の背景と問題について記事にしました。
化粧品にもっとも使われているオイルということで、スキンケアに用いられている植物油を連想されたユーザーさんには申し訳なかったと思いますが、一方でこの植物油は化粧品の洗浄剤材料の原料として大きく依存しており、今後の動向に目を向けて頂きたい素材と言えます。
洗浄成分ですのでシャンプーやボディソープ・洗顔フォームなどの見極め術と直結しており、数回に渡ってお話をしていきたいと思います。
またそれに繋がって敏感肌やベビー向けの、お肌に安全性の高い洗浄剤を見極める方法にも触れていく予定です。
この記事の目次
アブラヤシ(パーム核油)の現状
さて前回の記事で、現在化粧品の用途に使われているヤシ由来のオイルや原料は、アブラヤシという木から採取されるパーム油というお話をしました。
また、これは化粧品用途だけでなく食用油でも同様で、成分が異なる問題を取り上げて話題にされているサイトやブログも多数拝見できます。
ここでなぜこれが巷で話題のネタになっているのか、その背景を少し説明していきましょう。
まず最初に触れないといけないこととして、なぜヤシ油が世界的にも話題になるほど需要が大きくなっているのかという問題です。
これは日本だけでなく世界的にも美容業界全体の動きとして、石油由来原料を避けようという動向と関係しています。
つまり化粧品に使われる洗浄剤を含む界面活性剤は、元来は原油から精製された原料を使って作られていました。
ところが、自然志向のニーズが非常に高まったことに加えて、化石燃料を守るために化粧品原料に使用することを避けようという動きが大きくなってきたことが、大きな要因になっています。
特に前回の記事で取り上げたように、ヤシ油やパーム核油に含まれる成分の脂肪酸は洗浄剤にもっともよく使われるラウリン酸・ミリスチン酸が非常に多いために、結果的にこのオイルのニーズが飛躍的に高まったというわけです。
一方で、このニーズに対してヤシ油を大量に採取するにはココヤシの木を栽培するための広大な土地を開拓しなければならず、これに代わる代替の植物として大量にオイルが採取できるアブラヤシの栽培が一気に加速したのです。
大量の需要に対する策といえます。
パーム油を原料としているにも関わらず、化粧品原料の成分表記が相変わらずココヤシ由来の「ココイル」となっているのは、こうした背景によるものです。
さてこのアブラヤシですが、想像できる通り日本ではほとんど栽培されていません。
ですので当然のことながら、アブラヤシの油「パーム油」のほとんどが海外のプランテーションに頼っており、主にインドネシアやマレーシアで栽培されています。
ところが、ここで大きな問題に直面します。
アブラヤシ栽培の問題点
ここまでパーム油から採取される脂肪酸は洗浄剤成分として非常にニーズが高いと書いた通り、原油に頼っていた洗浄剤原料のほとんどがこのアブラヤシ由来に変革してきただけに、その大量の需要は皆さんのご想像通りです。
これは化粧品用途だけでなく、洗濯洗剤や食器洗剤を含め家庭で使用されるすべての洗浄成分の原料となっていたがために、その需要は並大抵の量ではありません。
またそれだけでなく食用オイルのヤシ油もこれに変わっているため、その需要の多さはすさまじい量と言えます。
となると、必然的にこの木の栽培のために広大な土地が開拓され、環境破壊の問題へと発展してしまったのがこの大きな問題点です。
その様々な環境への影響は、多くのサイトや保護団体の調査で詳しく述べられていますので、こちらでは割愛します。
ざっと取り上げるだけでも動物の食物連鎖問題や、土壌地質の変貌、そしてもともとが安い製品の原材料であっただけに、人材雇用の問題にまで波及しているとも言われています。
土壌の変貌に関しては、衛星からの映像からも見てとれるほどと、大きく問題視されています。
そしてこうした社会問題に発展すると、それを金儲けのネタと繋げていくのがこの化粧品業界の常ですね。
消費者製品への影響
ここまでヤシ油とパーム油の課題について述べてきましたが、これを知った上でここからいよいよ皆さんの身近な化粧品への波及問題について触れていきます。
まずは前出の通り、洗浄剤成分が石油由来原料からヤシ油由来に変わっていくことで、当然のように「天然由来」をアピールするコスメ製品や洗剤が現れたのは、ご想像通りです。 いわば「合成界面活性剤フリー」です。
とはいえ、原料を生産していた原料メーカーさんがどんどんこれにスライドしていくことで、こうした市場製品のほとんどが対応することになりますので、自然に市場製品のほとんどがこれに変わっていきます。 つまり、次第にPR点の訴求力が失われていきます。
そうなると市場は当然のことながら、今度は「アブラヤシ(パーム油)問題」に目をつけることになります。
警鐘をならすための材料は環境保護団体などがどんどんと情報を拡散してくれますので、消費者を誘導するのはカンタンです。
洗浄剤関係や食用油だけでなく、加工食品までもパーム油を使用している大手メーカーを名指しで誹謗している団体まで見受けます。
それを利用し、この言葉がネットにも踊っています。
【私達は環境を破壊するパーム油を使っていません】
こうして今や洗浄成分を使った製品は、市場で不毛な競争を展開しています。
・石油由来原料フリー
・パーム油フリー
果たしてどれが良いのか悪いのか、ユーザーの皆さんは悩ましい市場競争の最中に置かれていると思って頂いてよいでしょう。
これに対して、ここでユーザーさんにとってどれが有益であるかを述べるのは非常に困難で、判断のものさしをどこに置くかによって大きく答えは変わってきます。
一例をいえば、「ココイル」となっている素材はパーム油そのものを原料として作られている植物由来素材と評価できますが、一方で前回の成分一覧をみて頂いてもお分かりの通り、夾雑物として不純物が結構な%で含まれています。
この中には低分子の脂肪酸も含まれていますので、これは昔の合成界面活性剤の危険性が拡散した時のように、皮膚内にまで浸透していく可能性のある脂肪酸を含んでいることを否定できません。
かといってココヤシ由来の原料はすでに生産している原料メーカーがごくわずかで、小さな工場で生産しているとすればさらに精製度が悪く、皮膚リスクは高いということも言えます。
ならば石油由来の原料を使っている洗浄剤が安全なのか?
またこれはこれで対比させることができない環境問題が控えていますので、そう述べてしまうのも危険です。
私たちのカラダの安全を守るのが優先なのか、それとも環境問題との共生を一番に考えないといけないのか、なんとも悩ましい時代になっていると言えます。
というわけで、今回は結論の見えない記事でまことに申し訳ありませんが、次回はさらに市場にある化粧品用途の洗浄成分に具体的に切り込むことで、ユーザーの皆さんにとっての答えに近づける話題へと進んでまいります。
では引き続き、また次週。
by.美里 康人