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植物エキス成分の裏事情

植物エキス101

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美里康人

 

美容成分って、なぜ後ろの方なの?

配合量少ない?

 

今回の話題は、業界の工場関係者や技術者の方はすでによくご存じの成分事情ですので、どちらかといえばユーザーの皆様に向けた記事になるかと思います。

とはいえ、手作りコスメなどに手をそめていらっしゃるユーザーさんなど、美容成分としての植物エキスにお詳しいユーザーさんもおられるかと思います。
そんなユーザーさんでも、参考になる裏話も盛り込んでいきたいと思います。

植物エキスとは

せっかくですので、あらためて「植物エキス」というよく耳にする言葉を、正確に解説しておきたいと思います。

ユーザーの皆さんが化粧品を手にされると、裏面に表示されている全成分表示には、必ずと言ってよいほど美容効果を期待する成分が配合されているはずです。
そのうちのかなりの種類は、植物から採取された成分となっていて、その植物の名称が記載されているのを見掛けることでしょう。

しかも謎めいたことにほとんどの植物成分は、表示順でいえばいつも後ろの方に並んでいますね。
もちろん、メーカーさんとしてはこうした薬機法上で規定された表示順の原則を踏まえて、1%以下の順不同の成分の中ではできるだけ前に表示されるように工夫を凝らされています。
とはいえ、さすがにBGやグリセリンといった、基剤に関わる保湿成分の前に位置する製品はみたこともないと思います。
このあたりは、ユーザーさんにとってひとつの不思議ではないでしょうか。

今回は、一例として一般的な美容成分の「カミツレ花エキス」という植物美容成分の名前をとりあげて、具体的に説明していきます。

* * *

まず、この成分名には「花」という言葉がつけられています。
なので、「カミツレ」(Chamomilla Recutita (Matricaria) )という植物の
花から得られた成分ということですね。

植物から採取されるエキスというのは、その部位によって取り出される成分が異なり、当然のことながらお肌に期待される効果も変わってきますので、数年前からこうして採取された部位の名称も付与されるようになっています。

では次。
まさか、そのままその花を化粧品に配合するわけにはいきませんね。
この花から成分を取り出すのに、まずはカラカラに乾燥させます。
つまり、余分に含まれている水分を蒸発させるわけですね。
漢方のハーブを連想すれば分かりやすいでしょう。

次はこれを細かく砕く、つまり特殊な機械を使って「粉砕」をします。
どこかで薬剤師さんがやっているのを見たことがある通り、すり鉢ですりこぎ棒を使ってゴリゴリやっているのを、機械で行うイメージです。

植物エキス103

こうして粉状にしたものを、この植物に含まれる有効成分が溶け出すように、様々な種類の溶剤を使って漬け込みます

ここで「溶剤」と書いたので、この時点で危険なイメージや毒性…などと悪い印象を持たれるかもしれませんね。
いえいえ、「溶剤」「溶媒」という言葉は化学の用語で「モノを溶かす材料・液」のことを指しますので、実際はお茶を煮出す時のように水を使うこともあります。
つまり皆さんが飲まれている日本茶は「緑茶エキス」であり、溶剤は水ということになりますね。

きっとユーザーの皆さんは

「できれば、溶剤は水がいいな。」

これは要求として当然ですよね。
一番安全でお肌に支障をきたしませんから。
でも、それでは植物のエキスは、実は美容効果の用をなしません。
その説明は、後ほどしていきましょう。

植物の種類

植物からエキスを抽出するお話に進む前に、端的にいっても実は同じ植物名でも種類がたくさんあるお話にも触れておこうと思います。

上の例であげた「カミツレ花エキス」ですが、花の名前の()内には英語で具体的に学術名を記載していましたね。
もう一度ピックアップすると、Chamomilla Recutita (Matricaria)です。

これ、一般的には皆さんも薬草や香草としてよく知る、カモミールのことです。
でも、カモミールという言葉も広義な言葉で、その中にもたくさんの種類があり、Recutita (Matricaria)とは一般的にジャーマン・カモミールと呼ばれている種類のことを指しているんですね。

化粧品の成分として使われるカモミールには、アロマの世界の方達にはよく知られるロ-マカミツレと呼ばれる種もあり。こちらはAnthemis nobilisという学名の種類になります。
なので成分名称も「ローマカミツレ花エキス」と表記されます。

同じカモミールでもこうして種(産地)によって成分の特性も変わり、ジャーマンの方は美容成分として活用されて、ローマンの方は香りが強いことから、香りをつける芳香成分としてよく使用されます。

さらには、もっと香りを強く精油として活用したい場合はローマカミツレのオイルだけを抽出し、今度こちらはまた別の「ローマカミツレ花油」という成分名になるというわけです。

こういった成分名の裏事情は他にもいくつかあり、よく目にするバラの精油のローズ油も同様です。

もっとも高級な、有名な香水にも使われるローズの精油は「ダマスクバラ花油」と表示され、ブルガリアローズとも呼ばれるダマスクローズから採取される精油で、10mLで2万円もする高価な精油ですね。
一方でワイルドローズと呼ばれるローズ油は「カニナバラ花油」という表記名で、こちらはノバラから採取される精油です。
価格も軽く10倍以上も異なり、香りも全く別物といっても過言ではありません。

少々乱暴な表現かもしれませんが、果実の世界でいえば海外のオレンジと日本のみかんとでは全く味も香りも異なるのと同じと考えれば、分かりやすいですね。
当然、含まれる成分も異なるということです。

身近なところではアロエエキスもそうで、キダチアロエ、アロエベラ、ケープアロエなどがあって、それぞれに期待される効能も違っています。

抽出とは?

植物エキス102

さて、次に最初に書いた溶剤・溶媒のお話に入っていきましょう。

植物のエキスを抽出するのに、水を使うこともありますがそれでは用をなさないと説明しました。
なぜもっとも安全と思われる水を使わないのか、説明をしておきます。

一般的には植物のエキスを取り出す溶剤としては、化粧品の保湿成分として使われるBGやグリセリン、あとはエタノールなどもよく使われます。
ではなぜ水を使わないのかというと、答えは簡単。
単に、溶けだす成分が少ないからです。

例えば緑茶ならば、私たちが飲む程度の濃度では、美容有効成分の効果を期待する植物エキスとしては薄すぎて使い物になりません。
つまりBGやエタノールを使うことが多いのは、植物に含まれる有効成分がより濃く煮出されるからなんですね。
もちろん、ただ単にこうした溶剤に漬け込むだけでなく、時には温度を加えたり密閉して圧力を加えたりといった工夫をし、より効率的に有効成分が溶け出すようなノウハウも盛り込まれて作られます。
お肌への効果が期待できなければ意味がありませんので。

ということで、「溶剤」という言葉からのイメージで、危険な溶剤を使うわけではないことを覚えておいて下さい。

で、これらの工程を「抽出」と呼びます。
ということで、この後はこの植物のカスをろ過して取り除き、これで植物エキスの完成です。
これがつまり化粧品の表示名称で「カミツレ花抽出エキス」となるんですね。

成分濃度の謎解き

そして最後に、大切な裏話。

一番最初に触れたように、皆さんが化粧品の成分をみていくと、こうした植物エキス成分はごく一部の例外を除いては、ほとんどが後ろの方に記載されています
しかもメーカーさんによっては、「高濃度」「たっぷり」なんていう言葉が躍っていたりしますので、なぜなんだろう?といった疑問を抱かれたことも多いでしょう。

例えば、今や原液コスメなんていうカテゴリーの製品もあり、コラーゲン原液製品と書かれていても表示の最初は「水」となっています。

この謎解きをしておきますと、ようは業界の規定として、植物エキスの場合は溶媒を除いて有効成分の含有量だけを正確に表示することと、定められているためです。
ですので、植物エキス中のほとんどはBGや水・エタノールといった溶媒成分ということになって、成分名の方に配合量が振り分けられて表示されるというわけです。

では、ここまで書いてきた植物エキスの原料には、有効成分はどの程度含まれているのでしょうか。
業界的には、「固形分」と言ったりもします。

あくまで一般論としての指標ではありますが、おおまかには「1%」とされています。
逆にいえば、99%はBGや水といった溶剤ということになりますね。
これまで私自身もかなりの原料のスペックを目にしてきていますが、ほぼこの数値で間違いないレベルと言えます。

例えば植物エキスを、化粧品中に10%配合したとしましょう。
かなり頑張った処方の配合量と言えます。
エキス原料はそれなりに価格もお高いですので、中身のお値段もぐんと跳ね上がります。
これ位配合すればエキスの色もそれなりに製品に付いて、効果もありそうな見栄えにもなりそうです。

ちなみに弊社のHPに掲載していたプロトタイプの化粧水(在庫がなくなってしまい申し訳ありません・・・)は、2種類の植物エキスをそれぞれに5%ずつ配合して、トータル10%にしていました。
ブログ内の写真にあるような色になっています。

でも、全成分の表記を薬機法に則ると、それぞれのエキスは0.05%ずつとなって、結果的に1%以下のところに位置することになってしまいます。

つまり、エキスを原液のまま化粧品にしてしまっても、全成分表記では1%にしかならないというわけです。
これが、どんなに頑張って植物エキスをたくさん配合しても、成分の順番として前の方には表示されない、謎解きの答えですね。

医薬品の有効成分の表示が〇〇mgとなっている通り、エキスの有効成分はほんの微量でお肌への効果が期待できるということになります。

  --そういうことなら、製品の全成分をみてもお肌に効果が高いか否かは、判断できないじゃん!

おっしゃる通り・・・。
ここは私達でも、他社製品の効果を見極めることはできませんね(苦笑)

ただし上の例でも書いた通りで、植物エキスはたくさん配合すると、ほとんどは製品にエキスの色が着きます
製品の色を見ることである程度のものさしとなるとのヒントを残し、今週の記事はここまで。

ではまた次週。

by.美里 康人

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