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クレンジングイオイルは、なぜサラサラ?

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美里康人市販のクレンジングオイル

もっと粘度があればいいのに・・・

そう思ったことはありませんか?

 

ブログを1週間お休みさせて頂き、まことに申し訳ございませんでした。
早速、今回の記事にまいります。

サラサラなクレンジングオイル

衣服を身につけた状態でクレンジングオイルでメイクを落とそうと鏡の前に立つと、指の間からこぼれ落ちそうになって「おっとと。。。」となる経験をされたことがないでしょうか。

 --そんなこと、気にしたこともない!

こうおっしゃるユーザーさんは、この先お読み頂く時間がもったいないので、退出頂いて構わないかもしれません。
ただ、このお話はここ数年で大ブームとなった固形のクレンジングバームのノウハウと繋がっていますので、気になった方は以下の続きへお進み頂ければと思います。

実は市販のクレンジングオイルは、100%がシャバシャバなんですね。
つまり、乳液や美容液のようにトロンとして手の平に留まってくれるような「トロミ」がないのが基本なのです。

これ、どう考えてももっと粘度があれば使いやすいですよね?
しかもクレンジングオイルって、メイクとなじませていると滑りが重くなってきます。
この時にも、もっとトロミがあって延びがよくて滑りが良いといいのに・・・と感じることも多いでしょう。

例えば、リキッドクレンジングがまさにそう。
ポンプ容器から取り出しても指の間から漏れ落ちない、適度な粘性があります。
その粘性をつけているポリマーは、液もちだけでなく滑りも与えてくれますので、摩擦ストレスがなくお顔全体に広がってくれます。

クレンジングオイルにこういう利便性があれば、きっと凄い売れるでしょうね。

--分かっているなら、なぜやらないの?

ごもっともなのですが、これには誰もが超えられない技術的なカベがあって、大手さんを含め誰もこれを達成できていない、大きな理由があるんですね。

増粘をするには?

この話題に入る前に、オイルではない水を使ったコスメの事情を先に解説しておきましょう。

上でも触れましたが、化粧水や美容液、そして乳液・クリームに至るまで、私達が言うところの「水系アイテム」、つまりは水を使った化粧品は、自由に粘度を調整できるポリマーの存在があります。
もっともよく使われるのは合成ポリマーの「カルボマー」ですが、他にも水系に使われるいくつかの合成ポリマーがあります。

ですので、少しトロミのある化粧水に始まって、トロリとした美容液や乳液、そしてさらにポリマーを増やして作られたゲルからクリームに至るまで、今や市場のほとんどの化粧品にこのトロミをつけるポリマーが使われています。

つまり、水に溶けるポリマーは水の中でネットワークを形成し、水を抱き込んでどんどん増粘していくことを化粧品に利用しているわけですね。

--ポリマーって、イヤなんですけど・・・。

こうおっしゃるユーザーさんもおられるかもしれませんが、残念ながら全ての化粧品がシャバシャバだったら価値観を全く感じられなくなりますので、ここは仕方ありません。
例えば、1万円以上もする美容液がディスペンサー容器から出てきて水みたいだったら、買う気になりませんよね。
きっと、なんだかんだ言っても「これって、ほとんど水じゃないの?」と疑問に感じるはずなのです。

そもそも、ヒアルロン酸だってポリマーですので、2%の水溶液を作れば水あめみたいなネバッネバになります。
だから「ポリマーだからお肌にはダメ」という理屈は誤解なんですね。

とまぁ、それはさておき、水が入っている化粧品はこうして自由にトロミを調整できることをまず知っておいて下さい。

オイルを増粘させるポリマーはあるのか?

ならば、オイルにもそういった増粘剤のポリマーを配合すれば、もっとトロリとしたクレンジングオイルが作れるはずと思ってしまうことでしょう。

実はここが大きな課題で、オイルを自由に増粘させることのできるポリマーがまだ世の中に存在していないことが、この化粧品業界の現状に繋がっているのです。

専門的にいえば「架橋」という言葉を使いますが、水に溶けて網のように広がって水を包み込み、それに伴って粘度が高くなってゲル化するのがポリマーのメカニズムですが、オイルに溶けるそういったポリマーが世の中に存在していないのです。

ここで、皆さんも素朴な疑問を抱くかもしれません。

--シアバターは粘度があるけれど?

確かに、ゲルではないけれど、ワックスのように固まったオイルはありますよね。
ローソクもそのひとつです。

しかしながら、これはポリマーの増粘作用とは物理的なメカニズムが異なります。
つまり、ただ単に常温では凝固・結晶化してしまう、融点が高いオイルというだけのことです。
分かりやすい例えでいえば、水が0℃以下になると固まる・結晶化する氷と同じことと考えればよいでしょう。
温度によって液化する・固化する物理現象、というだけでしかありません。
なので、シアバターは暖かいところに置くと溶けてしまいますよね。
使用する際に手の温度くらいで溶けてしまうと夏場に溶けてしまいますので、商品としては役に立ちません。
市販のシアバターがバッグの中で溶けてしまい、漏れてしまった経験をお持ちの方もおられることでしょう。

ポリマーで作られたゲルコスメや美容液は、温めても全く軟らかくならないことが、このメカニズムの違いによるものです。

そしてクレンジングバーム

ということでまとめに入りますが、こんなオイル原料の背景があることからこれまでオイル系のクレンジング剤は、粘度がサラサラであることが大原則でした。

ところが、このオイル製剤の課題に対してポリマーと類似したメカニズムのゲル化剤が世の中に出現しています。

最初に製品として世の中に登場したのは、皆さんもよくご存じの「固めるテンプル」です。
意外なところに、オイルのゲル化剤があったんです。
熱した熱い家庭の廃油にこれを少し添加して溶かすだけで、少し冷えるとゲル化するという製品ですね。
ジョンソンさんのHPのQ&Aに、そのメカニズムの解説が掲載されています。

固めるテンプル

成分でいえば「ヒドロキシステアリン酸」といい、普通の脂肪酸に化学反応を利用して水素を添加してあげることで、水素同士が水素結合で架橋し、これがオイルに溶けると三次元の立体構造を形成することでゲル化する性質を利用した素材です。
コロイド分野の世界では「オルガノゲル」と呼ばれます。

バーム01

出典)J. Jpn. Soc. Colour Mater., 90〔10〕,349?353(2017)

この模式図にもあるように、上で説明した凝固するロウ状のオイルの固化(結晶)メカニズム(右側)とは、異なることが分かります。

そしてさらに開発されたのが、プラスチックといえば分かりやすい「ポリエチレン」です。
身の周りにあるプラスチック製品よりも少し分子量が小さく、油に溶けるポリエチレンがこれです。

これもオイルが熱いうちに溶かしてあげると、冷えた時に立体の架橋を形成してゲル化するというメカニズムです。
この技術は、プラスチックの名前の一部をとって「プラスチベース」と名付けられ、医薬品の軟膏剤に多く活用されています。
それまではお肌に塗るとベタベタとした軟膏剤は、この技術の採用によってサラっとした使用感の軟膏薬が可能になったというわけですね。

実はこの技術を活かした化粧品が、ここ数年で流行した「クレンジングバーム」だったんです。

最初に開発されたのがもう20年も前。
コーセーさんのCOSME DECORTEブランド。
マイクロパフォーマンスシリーズの中にあった、「メルティタッチ」という製品がこれでした。

当時は使い勝手が受け入れられずに数年で廃盤になりましたが、数年前にDUOというブランドで他社メーカーさんがこれのコピーを製品化したところ、大ブームとなって今に至っています。

ちなみに、現在市場に販売されているクレンジングバームが全てこの技術というわけではありません
ただ単にロウ状の固形油で固めた製品もありますので、全成分(ポリエチレン)をみてから判断されて下さいね。

「ミツロウ」「シアバター」などの固形油で固めたバームは、温度で温まらないとDUOのように手の上で溶けるメルティな感じになりませんので、ご注意下さい。

とはいえ、増粘にはほど遠い

 --オイルの増粘剤、あるんじゃん(怒)

お話の最初では「オイルの増粘剤はない」と説明していたのに、話が変わっているじゃないかと指摘を受けそうですね。

いえいえ、確かにオイルをこうしてゲル化させる原材料は存在します。
しかしながら水に溶けるポリマーと異なるのは、少しトロミをつけたり、やクレンジングオイルが垂れない程度のちょうどよい粘度に調整するといったことができないのがオイルゲル化剤の難点なんです。

いわば水かプリンかといった世界で、ほとんど増粘しない状態から一気にプルプルのゲル状に到達してしまい、美容液やゲルのような、化粧品に適した粘度には自由にできない性質なため、結果的にこうしたオイルゲル化剤はごく一部にしか使われていません。

唯一よくあるとすれば、オイルとはまた異なるシリコーン架橋体ですが、こちらも特異なカテゴリーの製品にしか使われませんので、スキンケアにはあまり関係ないでしょうか。
そして最後になりましたが、実は今回この話題に触れたのはクレンジングバームのお話ではありません。
(このお話は以前にも書きましたので)

実はこんなオイルクレンジングの大きな壁に、唯一チャレンジした製品が市場にあったんです。
しかも皆さんもよくご存じの製品です。

それは、ファンケルさんの「マイルドクレンジング」なんです。

あれ、皆さんもお使いになってみて、他社のクレンジングオイルとは使用感が少し異なることに気付かれませんでしたか?
そう、手にとると少しトロミがあり、そしてお肌になじませると手とお肌の間にクッションがあると思います。

これはこれまでとはまた異なる、「パルミチン酸デキストリン」というゲル化剤が使われていました。
ゲル化のメカニズムは同じですので、ちょうどいいペースト状の”トローリ”というところまではいきませんが、ほんの少し配合してあげることで他社のクレンジングオイルよりも少しトロミがあるのが特長でした。

そしてさらに最近これが進化を遂げ、今は「ステアリン酸イヌリン」というさらに新しいゲル化剤にリニューアルされています。

まだまだトロトロのペースト状には至りませんが、少なくてもサラサラのクレンジングオイルとは一線を画した使用感で人気が高いのは、こういった技術が隠されていたんですね。

とまぁ、長い文章でよそ様の製品をホメちぎった記事になりましたが、この現状と業界の歴史を十分に熟知した上で、ダマって指を加えてみているわけもないのが私達です。
これを大きく打開する策は、実はきちんとあります。

私達はメーカーではありませんので、製品名をあげるわけにはいかず申し訳ありません。
さらに進化したオイルクレンジングを市場で目にする機会を、お楽しみに。

ではまた次回。

by.美里 康人

 

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