週3で異なる目線の美容記事をお届け
最近は、香りのついた化粧品が
増えてきました
で、今回は精油や香料についてのお話
厳しくなってきた薬機法
以前にツイートしましたが、ここ数年で手作りコスメに使用する材料を販売するネットショップさんが、めっきり減りました。
いくつかの成分をセットにしたキット販売や、ベース化粧水といったカタチに変更されているショップさんも多くなっています。
これは薬機法的に違法性が高く、長年に渡って無法状態だった部分に本格的なメスが入れられ始めたことによるものです。
どうも当のショップを運営されている方々は、もともとが薬機法に明るくないためか緊迫感に欠け、非常にノンキな状態が十年以上も続いていましたね。
なにせ、薬機法違反での摘発となると刑法での処罰対象となるため、まさに「逮捕」という厳罰が下されます。
そして当然前科が付きますので、ここは是正勧告の時点でしっかり改善しなければ、とんでもないことになります。
実際に、私の周りでも手作りコスメ材料を販売していて逮捕された方もおられます。
私達、化粧品を作る専門の現場でも非常に厳しい薬機法に縛られていますので、当然といえば当然のお話ですよね。
意外と知られてない精油の規格
さて、今回はこうした手作りコスメで使われることも多い、香り成分についての話題。
昨今は市販化粧品も無香の製品がほとんどになったことから、差別化が難しくなり個性のある香りをつけたいという要望も、かなり多くなってきています。
その場合、手作りコスメにおいても市販化粧品の開発企画でも、やはり香りを付与する香料は天然素材の精油を使いたいというニーズが圧倒的に多くなっています。
しかしながら、ここで大きな問題となるのが、アロマ用といったいわゆる芳香雑貨として扱われている精油や香料と、区別がついておられない方が非常に多い点です。
手作りコスメなんかの場合、PLAZAといったいわゆるバラエティショップあたりで販売されている芳香用の材料を買ってきて、手作りコスメに香り付けをされている方もおられますね。
手作りコスメだけでなく、時に市販コスメの開発現場でも、化粧品の企画で雑貨に使用される精油をお持ち込みになるケースもあります。
つまり、合成香料ではない天然由来の精油ならば、皮膚への負担が少ないと思い込まれているようです。
実は、これは非常に危険なことなんです。
雑貨向け・食品向け・化粧品向け
もっとも理解しやすい例をあげてみましょう。
レモン油やオレンジ油といった柑橘系の精油は、課題があるということをご存じなユーザーさんも多いかと思います。
私の子供の頃は、おばあちゃんなんかがレモンのスライスをお顔に貼り付けてスキンケアしていたことがあったのですが、今ではそんなことをする方はおられません。
レモンの果汁には、光感作を起こすリスクがある成分が含まれていることを、皆さんご存知だからです。
ですので、果実から抽出したそのままの精油のレモン油は、お肌に使えません。
オレンジ油なんかも非常に酸化されやすく、お肌に使うと色素沈着などのリスクを伴います。
ですので、雑貨用の柑橘系の精油は、化粧品といったお肌に使用する製品には使えないということが分かります。
ベルガモット油などは、柑橘のわりにグリーン系が含まれて香りに上品さがあり、使いたくなる方も多いのですが、雑貨向けの精油はNGです。
これはもちろん、飴やお菓子に使われている食品向けの精油も同じで、これらは化粧品向けの精油とは別のモノです。
つまり、化粧品向けの精油は果実から抽出した精油そのままではなく、こうしたリスクのある成分を専用に除去されているというわけです。
そのため、価格もうんとお高くなっています。
例えばオレンジ油ですと、5~10倍くらいのお値段がします。
薬機法とは別の香料の規格がある
ということで、私達化粧品を開発・生産する立場の人間は、必ず化粧品の香料を扱う香料メーカーから香料を仕入れます。
もちろん、精油も同じです。
で、化粧品用の香料を扱うほとんどのメーカーさんは日本香料工業会に属していて、国際香粧品香料協会『IFRA』(International Fragrance Association)※イフラと呼ばれますという国際的な機関に加盟し、そこで規定された規格に則って化粧品用の香料や精油を製造しています。
この『IFRA』は、香粧品香料原料安全性研究所『RIFM』(Research Institute for Fragrance Materials)※リフムと呼ばれますという研究機関で安全性の試験がなされたデータを元に、基準を作成しています。
ですので、香水やオーデコロンをはじめ、化粧品といった皮膚に接触する使用用途に使われる香料や精油は、必ずこの基準に則った材料を使用しなければなりません。
様々な植物や果実から抽出された精油にこの基準に収載されている成分が含まれている場合は、精製して除去しなければらないというわけですね。
私自身が経験したきた中では、アロマセラピストを名乗るアロマ業界の方でも、ほとんどがこういう香料材料の背景をご存じありませんでした。
芳香療法に使われる精油や香料も、お肌に塗布したり、決して化粧品には使えません。
オーガニックコスメなんかの企画に携わっておられる方は、ご承知しておかれるとよいかと思います。
精油を持ち込みで化粧品会社に企画を依頼する場合は、きちんとした香料メーカーさんから入手された精油・香料をお使い下さい。
精油・香料のリスク
このお話をするとよく驚かれますが、植物から採取される精油は軽く100種類以上の化学物質から成り立っています。
多いものなると、300種類にも及ぶ化学物質から構成されています。
一般ユーザーさんに精油の成分分析を行った分析データチャートを見てもらうと、ユーザーさんがもっとも毛嫌いされる全てカタカナの成分が、ドヒャーっと並びます。
実際のデータを見てみましょう。
小さくてスマホでは読みづらいと思いますが、こちらはアロマ用ラベンダー精油の分析データです。
*株式会社アロマアンドライフ社(リンク:https://aroma-life.net/)
成分数は27種類が検出されていて、少ないじゃないかと思われるかもしれませんが、トータルの%は100%ではなく97.81%になっていることが分かります。
これは、成分の最低数値が0.10%になっていますので、0.1%未満の0.0●%やさらに微量含有量の成分は割愛されているためです。
つまり、残りの2.19%に0.1%以下の成分がまだ数十種類含まれているというわけです。
これは輸入モノの精油ですが、もちろん産地や採取時期によってもかなり変わってきます。
と、こういうことなのですが、これを踏まえて臆することもなく「お肌に安全」と言えるユーザーさんの方が、私達にとってはちょっとした怖さを感じてしまいます。
元をただせば、合成の「香料」が表示指定成分となったのは、微量しか配合していないにも関わらずアレルギーや感作を起こすトラブルが確認されたためでしたから。
この数百におよぶ精油の化学物質の中に、リスクのある成分が含まれていない確証は誰も持っていないと考えるのがフツーですね。
以前にもこちらで取り上げましたが、例え合成であっても成分数が少なくて済む安全性が確保された合成香料の方が、リスクは少ないと考えるのが技術者としての意見ですね。
異論を唱えるユーザーさんも多いと思いますが、化粧品業界の歴史はひとつひとつ起きた出来事を元に進化してきていることだけでもご理解頂ければ、このブログも価値あるものになると考えています。
ではまた次週。
by.美里 康人