スキンケア製品にセラミド
絶対にいいのは間違いなし。
ただし・・・正しく配合する方法を模索しました。
ヒト型の「セラミド」を復習
前回、皮膚に存在しているヒト型の生セラミドは、結晶性の分子会合体を形成しやすい成分で、例え乳液やクリームといった乳化製剤であっても、高配合が困難と説明しました。これを知るために、ヒト型と言われるセラミドのひとつセラミド3(フィトスフィンゴシン)そのものの素材がこちら。
脂質ですから水には溶けないのはもちろんですが、油にも非常に溶けにくい白い粉です。
ユーザーさんの感覚では、小麦粉を水に溶くのととおんなじ感じで理解すれば良いと思います。
ちなみに、ヒトの細胞間脂質に含まれるセラミドは他にも「1」「2」「6Ⅱ」などと他にもありますが、いずれもほとんど同じ性質です。
そしてこれは乳液の顕微鏡画像で、一般的な市販製品のように油分に溶かして配合したものですが、セラミド3がエマルジョン中で会合体の結晶を作ってしまっている画像です。
しかも一応、ただ油分に溶かしただけでなく、それなりに機械的にも製法にも創意工夫を凝らして作成した試作品乳液です。
大きな塊になった結晶のようなものがボコボコと存在するのが見てとれます。
カタチが円形でないこと、そして立体的な石のように光が反射した画像から、結晶であることが検証できます。
会合体といっても目ではとらえられない10μm程度の大きさですので、乳液自体はキレイで目で見ても分かりませんし、手に取って使ってみても全くそれは判断できませんが、こうして顕微鏡で粒子の状態を観察すれば一目瞭然ですね。
例え0.5%の配合でも、何か特殊な製剤技術を駆使しない限り、界面活性剤を使った普通の乳化技術ではこうなってしまいます。
これでは到底細胞間脂質に届かず、表面バリアとして機能するにとどまってしまいます。
私達は全成分を拝見すれば判断が可能ですが、良し悪しはさておき市販コスメにはこういった状態のまま満足されている製品も多いかと思います。
こうして色々と模索すればするほどに、あらためて花王さんの方針は「なるほど・・・」と思い知らされます。
セラミドを界面活性剤も使わず溶解した凄い原料
ただ実は、これをきちんと高度ナノ粒子への溶解を達成した原料メーカーさんが存在します。
プレミックス原料として原料メーカーから私達にも供給される【セラミドリポソーム】(原料名はヒミツ)です。
最近はこの原料をお使いの工場さんも増えているかと思います。
あらゆる化粧品に簡単に配合できるので、利便性の高い素材です。
ただしこれは、この時点ですでにセラミドが数%(数値は明かせず、申し訳ありません)でリポソーム化されていますので、皆さんに提供する化粧品としてセラミドが高濃度になるよう設計するには、濃度が全く足りません。
「入っているだけ」なコンセプトなコスメであれば非常にありがたい原料ですが、私のような高付加価値をめざす技術者には役不足になってしまいます。
しかもリポソームは作るだけで非常にコストの掛かる技術ですので、この状態でも死ぬほど高価で、セラミドとして1%になるよう配合してもおそろしい価格になってしまいます。
さてここで
「いやいや。 既にセラミド2が高配合されたクリームが世に出てるでしょ。」
という声が聞こえてきましたね。
かくいう私もtwitterでその製品を「驚愕だ!」と、絶賛でつぶやきました。
〇〇製薬さんです。
当時は私自身もやられた感を持ち、追い付け追い越せな気持ちになったものですが、その後色々と調べてみると、あちらはセラミドを配合するために界面活性剤を使用しており、果たしてきちんと微粒子化されているかどうかはなんとも言えません。
入手して顕微鏡で解析してみればすぐに判断できるのですが、それはやめておきましょう。
そんな、他社さんのあげ足を取っている暇があるなら、負けない製剤開発をするのが私達の使命ですから。
なにより、次から述べる非常に新しい設計のヒントが頭に描かれていましたので、時間も惜しく業界の未来開拓にチャレンジあるのみ、です。
細胞間脂質はどうなっているのか
ここで皆さんもお勉強のために、一緒に理屈を考えてみましょう。
皮膚の細胞間脂質でセラミドはどうなっているんだろう?と。
まぁ、目で見れるわけではないので私も正確なことは分かりませんが、少なくてもあんな白い粉の結晶状態で存在しているわけではないことくらいは、分かりますよね。
ここで最近皆さんもどこかで耳にしたことがあるかもしれない「ラメラ」という言葉が出てきます。
これはちょっとした専門用語ですので理解が難しく、長くなるのでここでは省略しますが、ミクロのこの世界で起きているその現象は、前回の記事で最後の方に示した細胞間脂質の成分構成にヒントがあります。
また、皮膚のメカニズムの問題ですから、それだけでなく細胞間脂質と隣接している皮膚の細胞膜、そしてさらには細胞間脂質以外の基底膜層から拡散してくる他の成分にもそのヒントが隠されています。
つまり脂質(油分)だけでなく水性の天然保湿因子だとか・・・。
と、ヒントはここまでにしておきましょう。
ただ、かといって少なくても、キッチンコスメ感覚でこれらの成分を混ぜただけでは再現できないのは言うまでもありません。
つまり、これらの成分との関係の中で、「ラメラ」という特殊な状態でキレイに並んで存在しているというわけです。
そして決して忘れてならないのは、「水」の存在です。
そう、皆さんもご存知のように、この部分には皮膚にとってもっとも大切と論じられている水分が存在しているはずですよね!
あれれ?
皆さんも気付かれましたか?
これって、「界面活性剤も使ってないのに、脂質(油)と水が一緒になってるじゃん」と。
つまり、自然に乳化してるんですね。
おぉーっと、動物の生理がなし得た「天然のエマルジョン」ですね。
実はこういう例、他にも皆さんの身近な身の回りにも一例があるんです。
マヨネーズです。 さらには牛乳もそうですね。
いずれも界面活性剤などない、自然素材がなし得た水と油の素晴らしい乳化です。
化粧品も頑張って皮膚の生理を再現し、そうあるべきではないでしょうか。
「We can do it!」
「やればできるはず!」と、私達のグループは1年掛かりでこの課題に取り組み、ようやく達成に近づいてきました。
界面活性剤や、さらには合成ポリマーなんて必要とせず、まさに皮膚内のラメラを再現してそれを活用すれば乳液やクリームは作れることを。
セラミド高配合の設計を開発しているつもりが、業界にはなかったフリーコンセプトな世界初の乳液に発展してしまいました。
きちんとセラミドを高濃度にラメラで乳化できた顕微鏡画像は、これ。
全く違いますね。
もう使用感は、あえて言葉にする必要はありません。
皮膚なじみ。
浸透性。
ここまでの2回におよぶ解説から、もう皆さんの想像通りです。
皮膚の細胞間脂質と同様の設計にしているのですから、説明の必要などないと思います。
私達が最終的に達成できたことが確認できたのは、顕微鏡よりも何よりもその使用実感でした。
そしてなによりエビデンスデータは、私のこのようなヘボな文章よりも明確に実証してくれました。
その一部をご紹介。
経表皮「水分蒸散量(TEWL)」とは角質層の水分が蒸発していく経過を測定しているもので、青色グラフがこの新開発のセラミド乳液です。
大きくマイナスの数値になっているということは、つまり大きく増えていることを表しています。
なんともエキサイティングな結果が得られましたが、なんとさらに驚くことに・・・。
実はオレンジ色の方ですが、同じセラミド量なんです(苦笑)
セラミド量は内密ですが、ただ単に乳化の方法が違う、界面活性剤を使った一般的なクリームなんです。
つまり、普通の乳化のクリームはもともと水分を保持しておく能力がほとんどない・・・と。
え?・・・ということはこれまでの市販のクリームは???
だって保湿クリームって、水分を保持する持続性を期待するアイテムではなかったでしたっけ(汗)
いや、自分もそんな保湿クリームを数多く作ってきたことがありますので、この予想もしなかったデータには驚かされました。
データの現実は言葉を発しません。
このデータが外部機関からあがってきた時に、とりあえず私達はめちゃくちゃ喜んで飛び跳ねたのは事実ですが、反面ではこれまでの自分の仕事も否定されたような、非常に脂汗なエビデンス試験でありました。
ちょっとこのオレンジ側のデータは、業界的にも正直ヤバいです(苦笑)
ということで、この技術を「HC-Rエマルジョン」なんて、名付けセンスのない名前をつけてみましたが、どこかで皆さんのお手に渡ることがあればいいですね。
こちらをご覧頂いている化粧品メーカーさんがございましたら、遠慮なくご相談ください。
技術資料など用意しておりますので。
近々、弊社や協力工場さんのHPにも資料を収載する予定です。
あ、ユーザーの皆様には申し訳ございません・・・。
業界の方向けですので、ここまでの解説でなにとぞお許し下さいませ。
では、また次週。
by.美里 康人