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ワンコインコスメのメカニズム

美里康人
100円均一を含む「ワンコイン」ショップ
コスメも安価なモノがありますが
なぜこの価格で???が今回のお題

 

驚きの原価

100円均一のショップに化粧品が登場して、既に20年以上の歴史を重ねています。
出現当時は、ほとんどが化粧水や保湿ゲルといったさほどコストの掛からなそうなアイテムばかりでしたが、ほどなくスキンケアのほとんどを担うアイテムがラインナップされ、さらにはメイクアイテムも出揃って、逆に言えば買えないコスメはない・・・という時代に突入しています。

こうした化粧品の良し悪しはいまさら取り上げませんが、きっと皆さんも疑問に感じているであろう「そんな価格で化粧品が作れるの?」といったあたりに、焦点をあててみましょう。

ただ最初に、一部の知ったかな方が語っている美容業界批判論者の論理を否定しておきたいのですが、決してこうしたワンコインコスメの原価が「当たり前」なのではなくて、市場の化粧品が水商売的な原価で暴利をむさぼっているのではないこと、念押しをしておきます。

で、それを踏まえて、このような格安な化粧品の原価はどれくらいなのかを考えてみましょう。

私も実は、こういった格安・大量生産の化粧品を作っている現場に従事したことはありません。
なので、数円レベルの厳密なことは言えません。
ただ、業界内の情報網は広いですし、なにより業者間のコストの試算方法、つまりは「仕切り値」に大きく差があるわけではありませんので、ほぼほぼ推定できます。

ということで概略のお話をするとすれば、だいたい1個あたりの中身は5~20円でできていると考えて良いでしょう。
それに加えてプラスチック容器といった材料が、1個あたり10~30円
容器にはオシャレな印刷などもされていますので、ここにも数円レベルのコストが加算されています。

ということは、化粧水といったもっとも低いアイテムで、トータルコストは15~20円というところでしょうか。

「へ~、なるほどそういうことなんだ。」

おっと、ここで納得されても困りますね。

ここまでは、化粧品が構成されている「モノ」のお値段。
つまり、皆さんや皆さんのお友達・肉親・親戚といったお知り合いの方の中にもお一人くらいはおられるはずの、工場さんで働かれている「作るため・売るための人件費」が全く入っていませんね。
モノのコスト感を考える上で、ここをよく見逃される方がおられます。
少なくても中身を作ったり、それを容器に詰めたり梱包したり運んだりといった方々のお給料をお渡ししなければなりませんので、そこに数十円のコストを加算してさしあげないといけません。

なかなかに厳しいコストとなりますが、まぁそれでもワンコインショップさんは全国津々浦々にありますので、数万個といった破格の数を作らせてもらえば少ない利益配分でもそれなりな収支になりますので、企業としては成り立つことでしょう。

とはいえ、中身も容器も人件費も、えらくお安いですよね。
仮に中身が水だけだったとしても、このお値段は相当お安いと分かって頂けるでしょう。
ではそのコストのメカニズムはどうなっているのでしょうか。

「中身が水みたいなものなんじゃないの?」

こんな否定論者さんの言葉もよく見かけますが、そういうことではありません。

コストのメカニズム

ワンコイン化粧品があれだけのお安いコストで製品化できるには、やはりそれなりにノウハウがあります。
品質をどう判断するかはさておき、事実だけをお伝えしていこうと思います。
コストダウンが図られている部分ごとに整理していきます。

①中身

まずやはりもっとも皆さんが気になるところの、ここを説明していきます。

まず最初にもっとも分かりやすい部分は、原料です。
日本の原料は非常に品質が高く、同じ成分でも海外に目を向ければ価格が全く違ってきます。

例えば身近な成分では、保湿成分としてオーソドックスなグリセリンにしてもそうです。
海外の工場で生産されているものはかなりお安いですね。
もちろんですが、それはただ単に価格だけの問題ではなく、それだけ品質に違いがあります。
それがお肌に影響を及ぼすかどうかここで議論は避けますが、様々な面で違いがあることを、私達技術者は何度も経験してきています。

同じ化粧水をこれで試作しても、安定性試験を行うと変な臭いが出てきたり…と。
変臭したということは、不純物として含まれる何かが変化を起こし、第三の成分が生成されたということになるわけですね。
それが何かは分からなくても、大切な皮膚に塗布する原料であるだけに、日本の技術者はリスクを避けることを優先します。

その他の素材でも同様に、もともとの色が明らかに異なったりといったことは普通にあり、そこに品質的な何かがあるのは明らかに分かります。

②処方内容

付加価値の高いコスメはそれなりに価値のある成分を使っていますが、こうした格安コスメはコストパフォーマンスの高い成分で構成されています。
それが美容効果に影響するかどうかは別として、やはりコスパフォも高くオーソドックスな成分で構成されていることは否めません。

例えばいまどきは全成分をみれば一目瞭然ですが、水のあとにきている成分はBG・グリセリンやDPGといった保湿成分でほぼ完結されており、あとはpHを調整するクエン酸といった酸やアルカリ、そして防腐剤でできているのは見てとれます。
それにそれぞれのアイテムのコンセプトとなっている植物エキスといった美容成分がほんの少し添加されているという構成になっています。

また、コストを抑えるために創意工夫を必要としないシンプルな構成とされていることは否めません。

③生産工場

すべての製品が該当するとは言いきれませんが、ほとんどのワンコイン化粧品は国内で作るとコストが合いません。
それは工場の土地代に始まり設備費用、そしてもっとも影響の要素が大きいのは人件費です。
ここはもう、お国によって金銭価値が全く異なるため、生産国が変われば桁違いに経費が変わってきます。

なのでほぼ間違いなく製品の裏を見てみれば、生産国は◯◯◯◯なんかになっているはずです。
薬機法上必ず表記の必要があるため、見ればちゃんと分かります。

「そんなことでコストが大きく変わるのか?」とお疑いの方のため、お国事情の一例を言えば、フィリピンなどは金銭価値が10分の1レベルに及ぶため、日本円で500万の貯金を持参して移住すれば、なに不自由のない生涯がおくれると言います。
それだけ、働かれている国民の方の報酬は日本円に直すとお安いわけです。
ちなみにフランスあたりは逆に物価が高く、日本の外貨を持ち込んでも苦しい生活を余儀なくされると言われます。

④容器

次いで化粧品が入れてあるオシャレな容器ですが、こちらも海外で作られたものはうんとコストがお安く、ワンコインコスメにはほぼ全てにこうした容器が利用されています。
時にキャップを開ければ二度と閉まらなくなったり、クリームといった製品は密閉が悪くて開ければ中身が乾いて減っていたなんていうのは、ご愛嬌と諦めるしかありません。

⑤開発費

最後に目に見えない部分のコストとして、私達のような中身の研究開発に掛かる経費・人件費はかなりの影響があるといえます。

製剤によってこの開発期間は様々ですが、場合によっては1年以上もの日にちを費やしてやっとたどり着く処方があったりで、ここはどこにでもある一般的なレシピを転用することで、研究開発に掛かる費用はほぼゼロにすることが可能になります。
単純計算ではありますが、仮にひとりの研究員がその製品の開発に半年の間掛かっていたとしたら、それだけで数百万円の人件費が費やされたことになりますので、ここもバカにはなりません。

化粧品に求めるもの

以上が、ワンコインといった極限までコストを追求したコスメのメカニズムでしたが、もうここまでくるとこの製品に何を求めているのか、分からなくなってくるのではないでしょうか。
女性(男性)が美しくなるための製品であったはずだと思いたいのですが・・・。

とりあえず皮膚に保湿を補う必要性だけの目的なのであれば、何もこんな品質への信頼のおけないものを使わずとも、それこそ医薬品用としてドラッグストアで販売されているグリセリンやワセリンといった素材を手に入れて、水で溶いてお肌をケアしてあげている方が、はるかに信頼性も高いですしトラブルを招く心配も無用と思えます。
グリセリンなんか、何年保管していても腐ったり変質することなどありませんので。
医薬品用(日本薬局方)で販売されているグリセリンは全て国産ですので、一切のリスクの心配はないですから。

 ※出典:健栄製薬社

とまぁ、ここまで色々と書いてきましたが、少なくとも化粧品は女性(男性)がキレイに、なおかつ若々しくあるための夢を売る商品ではなかったかと、あらためて思う次第です。
業界に身を置いていると、高価なコスメの中にもそれだけの付加価値があるかどうか、実に怪しい製品も数多くありますが、だからとこうしたワンコインコスメと一緒にしてしまうのは、あまりに短絡的と思って頂きたいですね。

では、また次週。

by.美里 康人

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