入浴後はすぐに化粧水を!
この定説は正しいのでしょうか
きちんとエビエデンスを調査してみましょう
定説の発端
この定説、今のお若い女性はご存じないかと思いますが、最近まで「サンデージャポン」というTV番組のレギュラーとして出演していた、整形外科の美容皮フ科ドクター「西川史子」先生が、15年ほど前にテレビでスキンケアのコツとして語ったのがキッカケで、定説として広まったかと思います。
私達も、入浴後の濡れたお肌の皮膚メカニズムを考えた場合、皮膚表面の水分が乾くとともに毛穴を含め細胞間脂質といったバリア層部分の小さな隙間から、毛細管現象によって内部の水分もともに持ち出されて乾燥を招く現象に繋がることから、理に叶った定説と納得していました。
そのもっとも分かりやすい例が冬の厳寒時期の唇で、乾燥してカサカサの状態のとき、ついうっかり舐めて潤してしまうとさらにひどくなってパリパリになり、唇がヒビ割れてしまう体験をしていると思います。
もうこうなると、角質層の水分が逃げ出していかないよう、リップクリームなどで皮膚表面を覆って水分を閉じ込めてしまわないと解決しませんよね。
ということでこの定説は正しいという認識で、一般的なスキンケアの常識とされてきています。
ソースはないか?
今回、この定説を深堀りしようと思ったのは、実はこのスキンケア法に疑いを持ったというわけではありません。
むしろ疑問を持ったのはこちらではなく、「皮膚のpH調整説」の方です。
いわば、洗顔の際に使用する洗浄剤は市場製品のほとんどがアルカリ性なのですが、このアルカリになった皮膚のpHが、皮膚の機能によってすぐに中性から弱酸性に戻してくれるという定説です。
この定説のエビデンスを調べようと思って調査していると、上の入浴後の皮膚水分量のデータと出くわしたというわけです。
そして、いずれの定説もユーザーの皆さんがちょっと誤解して理解していることを知ったことで、今回の記事と相成った次第です。
皮膚のpH調整能
今回のお題の前に、今回調べてみた皮膚のpH調整の定説について触れてみましょう。
最初に結論から書きますと、まぁ皆さんが理解されている皮膚のpHコンロトール機能に間違いはなく、皮膚のpHは常に弱酸性(5~6)に保たれる機能を有していることに間違いはありません。
石けんを含めアルカリ性の洗浄剤で洗顔をしたあとの皮膚はやはりアルカリに傾いていますが、時間とともに弱酸性へとスライドしていきます。
ただし、皆さんはどれくらいの時間で元のpHに復帰すると感じているでしょうか?
これは意外と時間が掛かり、正式なエビデンスによれば最低でも30分は掛かるとされています。
おおよそ、2時間ほど経過すればほぼ元のpHに戻るようです。
ちなみにどういうメカニズムで皮膚のpHが酸性になっていくかというと、保湿成分として皮脂に含まれている乳酸という酸の物質が分泌することによって、酸性へとスライドしていくそうです。
でも、不思議ではありませんか?
酸が分泌されれば、過剰になってもっと酸性になることはないのだろうか?と。
ここが人体の生理の不思議ですね。
これは化学の世界では「pH緩衝」と言いまして、私達も化粧水や美容液・ジェルなどを設計する時には、処方設計にこのメカニズムを用いてpHをコントロールします。
これをやっておかないと、化粧水なども自然にpHがアルカリや酸にスライドしていきます。
いわゆる、品質劣化ですね。
これがジェルになると、この製剤の工夫をしておかないととんでもないことになります
pH値がスライドすることで、なんと日にちが経つとジェルの粘度がなくなってしまい、ドロドロになってしまうんですね。
実はこういった製品、市場でもフツーに見かけますね。
技術者の方々のセミナーでもよくお話しますが、昨今はこういったノウハウすらご存じない化粧品研究者が、実際におられるのです・・・。
なんともなげかわしい時代になったものですが、「安近短」な世の中になったことで、まだまだ化粧品の業界も、消費者の皆さんに安心して使って頂ける時代は程遠いように感じてしまいます(苦笑)
と、話が飛んでしまいましたね・・・。
とまぁ、こういう皮膚が持つ天然のメカニズムによって、pHはある程度のところで常に一定に保とうとする機能を持っていまして、これを「pHの緩衝機能」と呼びます。
さて水分量
さて、そして本題の水分量です。
上のpHのデータとともに、水分量をきちんと測定したエビデンスが出てきました。
西川先生が提唱された少し前の、2003年です。
看護技術学会誌への投稿で、看護大学の研究論文ですので、信ぴょう性はそこそこ高いと判断してよいでしょう。
被験者は7名のテストデータです。
点線のグラフが、普通に入浴した場合です。
(実戦側は無視して下さい)
引用:Japanese Journal of Nursing Art and Science Vol 2, No 1, pp 61—68, 2003
はい、ご安心下さい。
見てのとおりで定説に間違いはなく、お風呂から出てタオルドライの後は、一気に角質水分量が下がりますね。
平均値で、試験実施前から5%は低下していることが分かります。
ただしここで皆さんによく見て頂きたいのが、低下していく時間です。
1時間はどんどんと低下していき、そこからようやく、少しずつ戻ろうとしているところが注意点ですね。
それに、2時間たってもまだ元の水分量にはほど遠く復帰していません。
このグラフの傾向から察するに、おそらく3時間でも元通りには戻らないと思われます。
いやはや、思ったより入浴後の保湿は大切だったんですね~。
これだけでも、調査してみた甲斐もあったというもんです。
逆に言えば、お風呂から出てから多少時間を経過しても十分に間に合いますので、慌てなくてもいいんですね。
それと、「もう時間がたったから戻ってるでしょ。 もういいや~。」と諦めないことです。
そして洗顔の問題
ここまでこのエビデンス論文を読み進めてきまして、実は疑問を抱いていたことが確かだったことがあり、実はその話題に触れたかったのが今回の記事。
それは、pHと肌荒れとの関係性です。
それはイコール、石けんといったアルカリ性の洗浄剤をお肌に使うことの弊害はないのか?という疑問点でした。
この点に関しては、業界では「pHの復活力があるので問題ない」という性善説がまことしやかにされてきましたが、今回の論文でも提言されているように、皮膚pHと水分量はしっかりとリンクしていることが判明しています。
pHが高い皮膚状態は、水分量も低いということなのです。
さらに最近のエビデンスでは、肌荒れを起こしている皮膚やアトピー性皮膚炎患者の皮膚は、平均してpHが高いことが解明されています。
つまり、肌荒れ・水分量・pHは常にリンクしていることが明確になってきたということです。
この3つの要素。
ニワトリが先か?卵が先か?の議論と同じで、どれが先でどれが結果なのかは、まだ私には判断できません。
ひょっとしたら、20年以上も前に「弱酸性ビ・オ・レ♪」と宣伝されていた花王さんは、このエビデンスをお持ちなのかもしれませんね。
相反する石けん業界さんがダマっているわけがないので、そうやすやすとそのデータを公開はできないでしょうけれど・・・。
ずっと取り組んでいるこの課題について、こうしたエビデンスをいつか採取してみたいと思っている、2020年最後の美里でございました。
ということで、この記事でいよいよ2020年の最後となりました。
今年もご愛顧、ありがとうございました。
なんだか今年は色々とありまして、相変わらず全力で駆け抜けてまいりましたが、新春は例の新企画の第二弾記事を掲載予定です。
オススメ商品の記事も書きませんし、相変わらず面白くもない記事ではありますが、こんな調子で来年も中立なスタンスだけがとりえなブログにしてまいります。
2021年も、何卒よろしくお願い申し上げます。
あ・・・そういえば。
新年にむけて記事や論文依頼を頂きまして、すでに執筆を済ませておりますので、そのご報告もさせて頂く予定です。
では、また次週・・・いえ、また来年。
by.美里 康人