週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
どんな研究をしてきたのでしょうか
先般こちらの記事でも取り上げたように、この10年で香粧品を学問として確立させて学ぶ学科を設置する大学や専門学校が増えていると書きました。
これは業界的にも必要な動向と言っても過言ではありません。
と先日、技術学会誌を読んでいるとある記事が目に入ってきました。
関西の武庫川女子大にも薬学部の中に健康生命学科というのがあり、前職の地元付近の女子大ですが、化粧品科学研究室を設置されている事を知りました。
そしてそこの生徒さんたちが研究成果を発表する課題として、実際に製品を企画開発したというトピックでした。
今回はそんな話題。
この記事の目次
大学薬学部ブランドコスメ
ブランド名は「MUKOism」
なかなかカッコいいですね。
報道機関への広報ですので、転載してもOKでしょう。
記事リンクはこちら。
*pdfファイル
https://www.mukogawa-u.ac.jp/special/pdf/release/20220215.pdf
今回発表された製品は大切な機能を有した日焼け止めアイテムですが、実は以前にハンドクリームも発表しているとのこと。
ハンドクリームも、日々の水仕事や極寒の過乾燥から手指を守る、大切な機能を持った製品です。
(スキンケアコスメに必要な機能がないという意味ではありませんので、念のため)
このアイテム選択も、機能訴求のためにかなりの研究をしたことが読み取れますし、単に大学の研究室から利益を生むためだけの目的ではなかったことがよく分かります。
日焼け止めを発売するとなると、それなりに機能が優れていないと市場性はありません。 まして市場には大手ブランドさんがひしめいていますからね。
これを題材にして色々と研究を進めてきたようです。
その一部が垣間みえる研究内容をみると、化粧品会社・工場の裏側が少しみえてきます。。
そのプロセスがHPにまとめられていましたので、解説も交えて少しご紹介していきましょう。 この業界の職業を目指す方々も、大いに参考になります。
2回に渡り、お届けしていきます。
アンケートからスタート
では、ざっと手順を追っていきましょう。
まずはどういった特長を持った製品、つまりは市場で差別化するための設計の方向性を決定するために、市場ニーズの現状調査が必要です。
そのためにはアンケート調査は不可欠。
とはいえアンケートの内容は、知りたい目的が満たされる質問にしなければなりません。
例えば使用感。
これは五感で評価するものですので、人によって感じ方は様々。 そして好みも個々人様々です。
保湿力が高い製品を欲する方もおられれば、ベタつくのがイヤなサッパリ嗜好の方もおられます。 もちろんそれは程度の違いもあり、基準となるものさしがありません。
つまり、ランダムで意見を収集してしまうと数字がぐちゃぐちゃになって方向性が見極められず、ムダ足に終わる結果となってしまいます。
まずは自分達が目指す方向性の仮説を立て、それが正しいか否かを問うアンケートにするのが調査のキモです。
そして数字などで段階を決め、できるだけ程度の違いも判明する方法を考えるのが、アンケート手法のセオリーです。
これは実は統計学という学問で傾向分析の手法がまとめられており、出てきた数字をどう分析するかに学術的な理論があります。
きっと先生から、数字と表とグラフ、そして関数を用いて小難しい講義を聞かされたことでしょう。
リンク)アンケート調査にチャレンジ
https://cosmetic.mukogawa-u.info/visiting_professor/post-1021/#Main
イメージトレーニングをすることで苦戦を強いられた痕跡が見えますね。
薬機法は?
当然のことながら、化粧品の開発・研究、そしてもちろん販売する上においても薬機法を知らずして取り扱えません。
リンク)日焼け止めについて、知っていますか?
https://cosmetic.mukogawa-u.info/visiting_professor/post-1209/#Main
まずは製品にどういったことを記載する必要があるのか、薬機法で必要事項が規定されていてしっかりと学んだようですね。
使用上の注意事項をあげていますが、ほぼ全ての内容が薬機法にて定められた記載しなければならない文面です。
小さな製品でそのままの文面の記載が難しい場合は、内容を維持しつつ文の体裁を少し変えても差し支えありません。
他にもどういった試験をする必要があるのかなど、医薬品とは異なる化粧品とはいえ、学ばないといけないことはたくさんあります。
さらに医薬部外品となると一層細かく規定があり、頭が痛くなるほどのカリキュラムにブン投げたくなる日々もあったと想像できます。
薬事を担当する職務につく方なら、さらに深く突っ込んで景品表示法や公正取引協議会の定める条項も目を通して理解しなければなりません。
早く実験したいな・・・と、教室から嘆きの声も聞こえてきそうです。
卒業して企業に入っても、忘れていなければよいですが(笑)
気になる日焼け止め特有の臭い
さて、いよいよ製品の開発に着手です。
アンケート調査によって、日焼け止めは特有の臭いが気になる方が多いことが分かったのでしょう。
これをなんとかして市場で差別化を図ろうという目論見。
とはいえ、あの特有の臭いの元は紫外線をブロックするための主成分からくる臭いですので、香料か何かでこれを隠すしか方法はありません。
いい香りをつけた日焼け止めを開発しようとの方針で、意見が一致したようです。
リンク)日焼け止め特有の香りに、抵抗あり
https://cosmetic.mukogawa-u.info/visiting_professor/post-1181/#Main
そうはいっても実際に着手するとなると、香りの選定は個々人の好みもありますし、色々と議論も白熱したことでしょう。
もちろん、太陽の光に晒される製品ですし、紫外線によって光アレルギーを誘発したり、香りが変わってしまって臭くなってもいけませんので、香料成分の化学についても専門に学ぶ時間を割かれたことでしょう。
そして香料や精油は油(オイル)ですが、もともとが水にも油にも溶けにくい製剤ですから、溶解できるかどうかも困難にぶつかったことは容易に推定できます。
でも、香りを決める作業は楽しく、好まない香りもあったとは思いますが、どこかワクワクする作業だったと思います。
ただし、自分が良いと思った香りは他の人はイヤだ・・・と意見が出たり、実は自分の好みはおいしそうな香料ばかり選ぶ傾向が見えてきたりと、嗜好性が大いに出るのもこの世界の特色。
結果的になかなか自分達好みの香りにはならず、ならばいっそ香りはない方がいいといった意見も途上で出たことでしょう。
そう、大手ブランドさんなどのいい香りは、調香専門のエキスパートの方たちと大手香料メーカーのノウハウが合体した秀逸な香りが多く、なかなかシロウトではたくさんの人が好む香りを作ることは難しい現実に直面します。
課題をクリアし、良い香りの製品になったのかどうか見てみたいものですね。
後半の次週は、いよいよ本格的に中身の研究開発に着手記事に入ります。
前半はここまでで、また次週。
by.美里 康人