化粧品開発のご相談はビークラボへ >>

「シミる」と「痒み」 どちらのコスメを選ぶ?

刺激

週一で仲間ブログの記事も更新されます
チガウがワカル!? 新米コスメ技術者のドタバタ奮闘記

週3で異なる目線の美容記事をお届け


美里康人

低刺激なコスメが良いという流布
でもその基準はどこにあるのでしょう?

化粧品を選ぶ時の根拠として、「低刺激」を一番の基準にされるユーザーさんが非常に多いと思います。
ここ10年ほどで、これがどこか当たり前の性善説になってしまっているように感じます。
つまり、刺激のないコスメは良い製品、刺激があるコスメは問題がある製品・・・という傾向ですね。
この傾向が「性悪説」にならないよう、皮膚で起きる反応について適切に判断できるよう、「シミる」「痒み」の現象について解説したいと思います。

ちなみに以前から明記している通り、このブログは医療ブログではありませんので、疾病に関わる専門的な内容には触れていません。
皮膚病に関する情報については、専門の医療機関の記事をご参照下さい。

シミる現象について

低刺激なコスメとは何かと問われると、当然ですが読んで字のごとしで「刺激の少ないコスメ」という答えになりますよね。
刺激が少ないイコール、“塗布して痛みを感じない”ということになるのは、言葉では当たり前のお話。
となると、例えば化粧水を塗布してピリピリとシミると刺激があることになって、これはダメだ・・・となるのでしょうか?

もちろん、何も損傷を受けている部位もない健常な肌状態で、なおかつこれまで使っていたコスメでなんの刺激を感じたこともないのにこの症状が出れば、そのコスメは何かが違うということになってこのコスメをダメ出しする判断は間違っていません。
判断の基準となるのは痛みの持続性で、一次刺激はしばらくすると痛みはなくなりますが、皮膚を侵している薬剤がある場合はいつまでも痛みが継続し、これは危険信号と言えます。 ここは大原則です。

ただ、以前にtwitterでつぶやき、他の技術者の方も書いておられましたが、ここは実は短絡的に判断するのではなく、ここで少し踏み込んで根拠を探る必要があります。
ご自身が思い込むだけならまだ良いですが、その起きた現象を人に伝えることがあるのならなおさら慎重になる必要性を感じます。

既によくご承知のユーザーさんは読み飛ばして頂ければ良いですが、シミるという現象を正しく理解して頂きたいと思います。

例えば、分かりやすい一例をあげてみましょう。
皆さんもご経験を思い出して頂きたいのですが、ケガをして擦りむいているところがあったり、切り傷があるところ、あとはニキビを潰してしまった跡など、いわば神経がむき出しになっている状態の部分を水道水で洗うと、イテテテ・・・となる経験をしますよね。

これは水道水に含まれている塩素が傷口に触れてシミて、痛みを感じているわけです。
この現象を専門的な言葉で、「スティンギング」と呼んでいます。

この経験から“水道水はお肌に悪害を及ぼす塩素を含んでいるからダメだ”と主張する方も一部におられますし、これを煽り材料に浄水器をPRするサイトなども見掛けます。
でも少なくても日本に限っていえば、水道水を飲んだからとカラダに害があるなんて話しは聞いたこともないでしょうし、単にニオイと味が気になるから浄水器を利用されていると思います。 自分の自宅もそうですが。

シャワーやお風呂に浄水器を使われているご家庭は稀と思いますし、塩素を含んだ水道水をお肌に使いたくないとまで主張される方は、ほぼほぼ皆無に等しいのではないでしょうか。
他にもこのシミるという体験はたくさんあり、傷口に消毒液やアルコール、またお薬を塗ってもシミるという経験はされていることでしょう。 例えば目薬などは、ほとんどの製品がシミると思います。

いずれもこれらの時に、カラダに良くないと考えたでしょうか?

もちろん、アルコールなどはアレルギーをお持ちの方もおられますので、これはまた別のお話。
お酒を飲むと酒酔いではなく異常に気分が悪くなったり、一滴でも飲むと湿疹が出たり全身が真っ赤になる方もこの症状で、これはその方が個別に持つアレルゲンの問題ですので、これは「刺激があるので悪い成分」という問題とは全く異なります。
これを成分の良し悪しと一緒にしてしまうと、小麦のアレルギーをお持ちの方が“小麦はカラダに悪い食材だ”と言っているのと同じになってしまいます。
依存症の問題とも異なるのも、言うまでもありませんね。

化粧品はフツーにシミる

というわけで、微量の塩素を含んだ水道水ですら傷などがあるとシミたりしますので、シミるという状態を感じただけですぐにその製品が良くないと判断するのは、間違った評価になってしまうことがあるとお分かり頂けたでしょうか。
市販の化粧品に配合されている成分には、普通に目に入ったり傷口があるとシミる成分は何種類もあります。

それがtwitterでも書いた、化粧品によく使われる「グリチルリチン酸2K」という成分。
これは甘草という植物から得られる有効成分で、化粧品どころか医薬品のあらゆる有効性に対して使われている有名な成分です。
あとは名称に「甘」という言葉が使われている通り味に甘みが強いので、甘味料として食品にも使われています。

これは有名な医薬品で、かぜ薬。

グリチルリチン酸2K

こちらは目薬。

グリチルリチン酸2K02

と、点眼薬にまで使われている非常に有効な成分で、化粧品にもお肌の炎症を防止する目的で、かなりの製品に当たり前のように配合されている成分です。
医薬品ではない化粧品であっても、最低限お肌を守るこの程度の薬剤はきちんと配合されているのが普通です。
化粧水であれば、むしろ入っていない製品を探すのが大変なほど。

でも実はこの成分、普通の正常なお肌では全く感じないと思いますが、傷口があったりするとシミるんですね。
これは専門的用語で「一次刺激」と呼ばれ、塗布初期に起こる初期の反応のことを指しています。
男性ならば髭剃り後や、女性ならばニキビを潰した後などなどです。
男性は髭剃り後にアフターシェーブローションを塗布するとシミるのが当たり前ですのでなんとも思っていませんが、あまり経験のない女性の方は驚かれることも多いようです。

これはほんの一例ですが、他にもビタミンCなどもそうですし、スキンケアの効果に期待を寄せる成分は、必ず抹消神経がむき出しになっている部分では何かを感じます。

こうして、化粧品でお肌の肌荒れを防止したり、炎症を抑えたりといったスキンケアに期待するのならば、この程度の皮膚への違和感はあって然るべきですし、むしろ傷口や目に入ってもなんの違和感もない化粧品だったら、逆に高い費用を払って使う意味もなくなってしまうことになります

ただし誤解があってはならないのは、完全に健常な皮膚の部位であきらかにヒリヒリではない痛みを感じたり、赤くなってくるような異常が表れるとこれは皮膚が侵されている状況ですので、こうした症状とはきちんと見極めが必要ですね。

というわけで、先日twitterでも触れましたが、化粧品は医薬品のように有効性薬剤を配合しなければならないわけではありませんので、処方設計する上で粘膜や傷口があってもシミないように作ることはさほど難しいことではありません。
グリセリンなど保湿成分だけを入れてあげて水のように何も感じないコスメを作るのは、たやすいことです。

でもそういった製品にしてしまうと、例えばクレンジングなどは目に入ったことを気付かずに洗い流しが不十分だと、洗浄成分が眼球に残ってしまって時間とともに眼粘膜が侵されてしまう事故に繋がりかねませんし、実際にそういった症例があったのです。
そのため、大手ブランドさんはそういった被害を防ぐために、あえて少し「目にシミるように」設計されています。

こうして、シミるコスメが悪い製品ということにはならないという説明を、ここまでさせて頂きました。

肌が危険を感じているケース

さて、先に述べたように、AHAピーリングコスメやハイドロキノンといった特殊なコスメのように、明らかに痛みと言えるようなハイリスクな製品はさておき、ユーザーの皆さんがどのように肌で感じた時に気をつけたほうが良いか、もしくは使用を続けない選択すべきなのか、解説していきましょう。

シミるという症状の一次刺激は神経のむき出しになっているところなどに異物が触れることで起きる反応と説明してきましたが、ならばコスメを塗布した時にお肌がどういった反応を示した時に注意の必要があるのでしょうか。

主にその症状は3つあり、以下です。

 ・かゆみ
 ・紅斑(部分的な赤み現象)
 ・発疹(ブツブツなど)

他にも水ぶくれなどもありますが、これはもうよほど皮膚に被害を及ぼす過激なコスメということになり、判断できない方もおられないでしょうから外しています。

これら3つの代表的な状態は、皮膚そのものの抹消神経で受け取った情報を元に受容機能で信号に変換されて脳に送られ、その後生理機能として反応があらわれた結果の症状です。
つまり、皮膚そのものが異常を感じ取ったのであらわれた反応、というわけです。
傷口といったその箇所にむき出しの神経が受け取った直接的なスティンギングとは、意味合いが異なります。

コスメを使用した塗布部位に時間が経過してからこうした反応が出た時は、いわば「自分の肌に合わない」ということを意味していますので、他に何か複合的な要因がなければそのコスメを避ける判断をすることになります。
ここも違いが分かりやすいのは、スティンギングに関しては人との差異はあまりありません。
(まれに、神経組織が鈍感な方もおられますが)

というわけで、塗布した部分に出た場合は接触皮膚炎、塗布部位に拘わらずあちこちにこうした異変が出た場合は、アレルギー性接触皮膚炎の疑いがあるということになりますね。

結論的としてはなんだか当たり前のようなことを書きましたが、シミるといった刺激と一緒にしてしまいがちにならないよう、全く判断が異なるというお話を中心に進めてきました。
ご参考になればと思います。

さて、今回の記事で年内は最後になりました。
少し早いですが、皆様が良い年をお迎え頂くように願い、本年の締めくくりにしたいと思います。

新年もこちらのブログ特有の企画記事を考えておりますので、楽しみにして頂ければと思います。

では皆様、良い年越しをお迎え下さいませ。

by.美里 康人

2 COMMENTS

Noah The Cat

明けましておめでとうございます。
皮膚刺激については製品の特徴上しかたのないもの、自分の皮膚には成分があっていない・強すぎる等、見極めが難しい商品が多いですね。
私自身が感じる、効き目はあるけれど、皮膚刺激もある成分と言えば、濃度にも因りますが・・・ビタミンA,B,C類、酸全般(濃度が高いAHA,BHAは避けますが)、塩化マグネシウム、アルコール、海水(!)や温泉水あたりでしょうか。冬の名物柚子湯も刺激的です。子供の頃、皮膚が弱かったので、夏になると無理矢理一週間海水浴させられて、泣きべそをかいている写真が残っています。ネットで調べていると、民間療法ではあるものの、海水に含まれる塩分とマグネシウムとその他ミネラル成分が荒れた肌に良く、かつ、日光浴でビタミンDを生成するため、全くでたらめな治療ではないそうですね。でも沁みました。
こうした所謂有効成分はチクチクとした刺激がありますが、30分程で治まる程度なら・・・と使用説明書に記載されていることがありますね。
チクチク沁みるだけで、翌朝まで肌が赤くなったり、無意識に顔を掻いていたり、ブツブツが出来ていない限りは「多少効果のある成分が多めに入っている」位に考えています。1週間使っても赤みやブツブツが出ずに、不快な刺激にまで至らないなら「こういうもの」と使ってしまいますね。逆に何の刺激もなければ「これ本当に宣伝文言のような成分が入っているのだろうか」と思ったり。
レチノール系はメーカーや濃度によって痒みや赤み、皮むけなどの反応が違うので、私の中ではかなり難しい成分の一つです。
落とし穴は上記の成分以外でも使い続けると無意識に顔をいじってしまうアイテムですね。これは弱いけれど接触性皮膚炎を起こしているのではないかと感じます。
無刺激を追い求めると結局「グリセリンのみ配合の化粧水」と「精製ワセリン」という、皮膚科の先生お得意のお手入れしかできなくなってしまうのですが、正直楽しくないですね。肌がボロボロの時にしかやりたくありません。

返信する
美里 康人

Noah The Cat様

あけましておめでとうございます。
本年もよろしくご愛顧のほど、よろしくお願い致します。

で、コメントにあるご経験、全く同じですね。
親に「海の塩は肌にいいんだ」とか・・・まぁ、今では全く否定はしませんが。
懐かしいヨードチンキなんかも、痛々しい思い出です(苦笑)
でも経験則から得られたその限度の見極めは、かなり精度が高いように思います。
皮膚が弱くて良いことなど何一つありませんが、ボーダーラインが自分なりに構築されているのは、身を助けるひとつの特技だと思います。
私などは、やはり仕事に活きています。 成分を触るとすぐに「コレはヤバいな・・・」と。
実はもともと学生の頃は建築設計技師になりたかったのですが、結果的にコレが天性の仕事だったのかも?・・・なんてね(笑)

また色々とご意見下さいませ。

美里

返信する

Noah The Cat へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です