週3で異なる目線の美容記事をお届け
セラミドが角質層ケアに良いのは当然
でも、配合するだけで良いのでしょうか?
興味深い結果が!
なんだか、またザワを煽るようなお題で申し訳ありませんが、もう半年以上も前に私達が行った検証実験で興味深いデータが得られ、こちらにアップしようかどうしようかずっと悩み続けていましたこの課題。
業界的にも、ひとつの布石をする意味でやはり必要性を感じましたので、今回の公開記事となりました。
今回は私達自身が採取した実験データですので、生データも公開していきます。
これまで誰も信じて疑わなかった美容業界の常識が、都市伝説になり兼ねない目からウロコの実験データも得られていますので、2週に渡って綴ってまいります。
きっと、これまでのスキンケア理論に対しても示唆することがあると、データが物語っていると思います。
クリームはフタの役目?
さて、実は2週に渡って書いていくのにはちょっとした理由があります。
それは、掲題の検証実験を行った結果の思いも寄らなかった副産物として、スキンケアの常識中の常識とされてきた概念に、大きな疑問を投げかけるようなデータが得られたことによります。
そのスキンケアの常識は、皆さんもよくご存じの以下です。
<クリームはフタの役目で、いわば保湿の最終兵器>
これはもちろん、私自身も疑ったことはありませんし、ある意味当たり前のこととしてこれまで仕事をしてきました。
様々な乳化技術の進歩やポリマー成分の技術が進化してきても、この原則が変わることはないと思い込んでいました。
これは私達処方を設計する人間が理屈を考えても、当然そういう機能を果たしてくれていると考えるのが理に叶っているからです。
なぜなら、化粧水や美容液にオイル成分は配合されていないのが原則ですから、水のように揮発しないオイルをたくさん配合されたクリームや乳液は、皮膚表面を覆ってくれて皮膚の水分蒸散を抑えてくれる、と。
つまり、水分バリアによって皮膚の保湿を保ってくれると考えられていたわけですね。
スキンケア理論としては、こういうことになります。
化粧水で水分を補い、さらに集めてくる
↓
クリーム・乳液の油分がそれにフタをしてくれて、水分の蒸散を防いで維持してくれる
ということで、中には美容オイルとして油分だけをお肌に塗布して、確実にフタをして保湿を完璧にしていると考えているユーザーさんもおられることでしょう。
再度言いますが、もちろん私もこの理論が正しいと思っていました。
特に市販のクリームの良し悪しは選ばなくても、最低限この機能だけは崩れることはないと。
ところが、今回の私達が実施した検証実験で、ここに大きな疑問を投げかけるようなデータが飛び込んできて、市場の保湿クリームの設計を大きく見直さなければならないのではないか?と考えるようになりました。
水分が減る?
実際のデータをみていきましょう。
まず、当然のことながら、保湿クリームを塗布すれば角質層の水分量は増えるはずですね。
精度を期すため測定は外部の試験機関に依頼し、恒温・恒湿を保った専用の検査室にて試験を実施しました。
被験者は3名で、20代・30代・40代の女性で実施しています。
測定前には、クレンジング・洗顔フォームを使って皮膚をリセットしました。
測定機器は「Corneometer®CM825」を用いています。
試験検体は弊社で作成し、オイル成分15%の一般的な非イオン界面活性剤を配合した保湿クリームです。
水性保湿成分も、グリセリンなど一般的な市販クリーム程度の多価アルコールが使われています。
実データが以下です。
画像を切り取って編集していますが、数値・グラフには手を入れていません。
左側が塗布前で、右側が塗布後の角質水分量測定値です。
30代の方は少し増えていますが、あとの2名はむしろ減っていることが分かります。
というよりも、保湿クリームを塗布しているにもかかわらずこの程度しか変わらないことが、驚き。
想定外の変化のなさに、驚いてしまいました。
まぁ、塗布直後の水分量そのものはあまり増大しないことも考えられるでしょうから、この後の水分量が増えていくことに期待しましょう。
そして期待の、水分蒸散量の変化
ここで出てくるのが、業界専門用語でいうところの「TEWL」、つまり「水分蒸散量」の試験です。
難しそうな言葉ですが、意味は簡単。
時間とともに皮膚の水分がどんどん蒸発していく過程の、水分の量を測定するわけですね。
皮膚の一部分を囲み、その部分にどんどん蒸発していく湿度を測定するセンサーがいくつも設置されてあり、断続的に測定していく仕組みです。
上と同じ試験機関にて、続いて実施されました。
用いられた測定機器は「Tewameter TM300」です。
その実データがこれ。
水分の蒸発量ですので、上のグラフと反対で低い方が良くて多い方が良くないという意味です。
塗布直後からの測定ですから、蒸発量は塗布していない部分よりも減ってもらわないと困るのですが、むしろ蒸発が増えている被検者がいる位、水分バリアの効果が認められていません。
結論はなんと、保湿クリームを塗布しても水分のバリア効果も水分量の増加もほとんど認められず、塗布しない部分とあまり変わりがなかった結果ということになります。
これには実に驚かされました。
この後、今回のこの試験の目的を果たすために他の実験を実施するのですが、このデータをみた時点で保湿クリームの存在と処方設計の根本を考え直さなくてはいけないと感じました。
まずはここまでの結果で、保湿クリームの処方はどうあるべきなのか、技術者としては考え直す必要があるのではないでしょうか。
例えば、保湿クリームという乳化(エマルジョン)を設計するにあたり、当たり前のようにオイルを乳化させるための界面活性剤が配合されていますが、果たしてこれが水分量の維持に影を落としていないだろうか?といった点でしょうか。
また、根本的にオイル成分は本当に水分の維持に役立っているのでしょうか?
これを検証するためには、さらにオイル配合量を増量したり、界面活性剤の種類を変更したり、さらにはO/WをW/Oならどうなるか?といった模索が必要になってきますが、今回の試験の目的は他にありますので、どこかで追試験をやってみたい課題を提供してくれたという感じでしょうか。
とはいえこの後、今回のセラミドの実験をさらに続けていくことで、この辺りの方向性というかひとつの答えが少し見えてきます。
セラミドクリームの話題とともに、次回に続きます。
最後に注意を記述しておきますが、今回のデータの著作権は私達に帰属していますので、製品に技術をご採用させて頂いた化粧品メーカーさん以外の転載・使用は、厳禁とさせて頂きます。
では続きは次週に。
by.美里 康人