週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
化粧品もやむなしの状況を解説
2022年に入り、世の中の様々な製品が次々と値上げされていることは皆さんもよくご存知のことと思いますが、この世界的な動向は美容業界においても例外ではなく、化粧品業界も非常に厳しい局面を迎えています。
今回はそんなお話をするのですが、私が記事にする限りはなかなか工場さんが表に出しにくい数字も示した上で、ユーザーの皆さんもいよいよ直面する事態になっていることを報告していこうと思います。
この記事の目次
これまでの化粧品業界の慣習
さて、これまでこの化粧品の業界は、中身の原料や容器などの包材が多少値上がりするようなことがあっても、製品の価格に反映されることはほぼ皆無でした。
例えば中身の原料においても、これまでの長い歴史でも以下のような原料の高騰がありました。
・オリーブ油
・スクワラン
・BG
・グリセリン
・ミネラルオイル
・ダマスクローズ油
etc
自然由来の素材が世界的天候不良で作付け不良な年であったり、はたまた戦争との関わりから原油価格が高騰したり、他にも原料工場さんが事故で生産がストップして入手が困難になったりといった事態で、価格が大きく上下した頃がありました。
いずれも2倍以上といった価格高騰の時代があり、その度に化粧品工場は厳しい状況を強いられたわけですが、とはいえそのような期間が長く継続するようなことはなかったと言えます。
時にはスクワランのように、その後オリーブ油から作られることになったことからむしろ価格がお安くなった原料もあったりしますし、工場内経費の凸凹を押し並べて利益を精査すれば、まぁなんとか乗り切れるといったレベルのことでしたし。
また、このような逼迫な事態はその原料だけの問題ですから、製品の価格を上げなければ工場が立ち行かないという問題には及びませんでした。
なので、化粧品の末端製品価格が値上げされるといった事態は、ユーザーの皆さんもほとんど経験されたことはないでしょう。
なにより化粧品の場合は製品に定価が表示されていることも多いので、そう簡単に売価を変更するわけにはいかないですよね。
というわけで長い業界の歴史はこの通りでしたが、さすがに昨年からのあらゆる素材やインフラの高騰は、もう価格改定に手が及ぶのはやむを得ない状況となっているお話をしていきます。
輸送問題
さて、もうこうなると、むしろ製品価格を据え置いておけるメーカーさんがあったとしたら、これまでよほど暴利を貪っていたか、もしくは仕入れ業者などを劣悪に締め付けているかのいずれかしかないと言わざるを得ない事態の要因を、紐解いていきましょう。
その第一が、輸送費問題です。
皆さんもご承知の通り、私達が利用する宅配便などの身近な運送費も、全社一律で10%以上もの値上げが実施されています。
これは当然、工場さんに納入される原料といった物品の運送費、そしてそこから製品を倉庫に発送するための輸送費、さらには末端ユーザーさんに送り届ける運賃と、すべてのコストにのしかかっていることになります。
とはいえ、これはまだ10%といった軽いジャブレベルの課題。
ことはさらに困難を極める問題に入っていきます。
原油価格問題
こちらもすでに皆さんも身近に家計を圧迫されている通り、原油価格の高騰によってガソリンの末端価格が1.5倍以上に跳ね上がっています。
また、この価格すらも政府の補助金で私達がスタンドで購入する価格への影響が少なく調整されていて、深刻なことに実際の原油の輸入価格はおそろしい事態になっています。
1,000Lあたりの価格なので数字は分かりづらいですが、この通り1年半前の3倍に到達する高騰となっていることがこれで分かります。
これは化粧品の価格にどれほどの影響があるでしょうか。
それはまず、原料の価格に影響を及ぼしています。
原料工場さんの燃料費にとどまらず、化粧品の原料はミネラルオイルといった鉱物油をはじめとして、かなりの種類が原油から作られています。
後にミネラルオイルは単独で価格を示しますが、これ以外にも界面活性剤などはかなり原油原料と深く関わりを持っていて、価格と直結しています。
化学的なお話をすると難しくなりますので、原油と関わりのある界面活性剤は全成分表記でこう説明すると分かりやすいかもしれませんね。
~~~PEG-◯◯(数字)~~~
この「PEG」というのは石油由来の物質で作られていますので、全て影響していることになります。
他にも「PEG」とついていなくても、数字がついている界面活性剤はほとんどが同じ意味ですので、このPEGと同じと考えて良いかと思います。(一部、例外あり)
他にも合成ポリマーは広く使われていますし、なんだかんだ言っても化粧品の成分として全て石油由来の素材を避けるのは非常に困難なほど、広く使われています。
ですので、これら全て価格高騰に繋がっているというわけです。
さらには、化粧品の容器もプラスチックでできていますので、これも当然あおりを受けています。
そしてもっとも大きな影響
ここまではある意味間接的な要因で、全ての化粧品の価格に影を落としているお話をしてきました。
しかしながら、もっとも大きく化粧品のコストを圧迫しているのは、まさに中身に使われている成分そのものの価格の値上がりです。
ここはもっともダイレクトにお値段に繋がっていますので、単なる推測話ではなく実際の実勢価格データで示していきましょう。
グラフは、以前の10年間の変動グラフと、この1年半の月別とを並べてわかりやすくしました。
以下は、輸入価格です。 ただし、私達工場が仕入れるお値段ではなく、原料メーカーさんや商社さんの仕入れ価格である事は了承下さい。
日本はかなりの原料が輸入に頼っていますので、全てではありませんがこの原価の上昇率がそのままあてはまると考えて頂いて構いません。
まずは、クレンジングオイルなどでまさにベース原料として使われていることも多い、「ミネラルオイル」。
こちら、軽く2倍になっています。
お次は、日焼け止めやUV系アイテムにたくさん使われている「酸化チタン」です。
こちらも純粋に2倍に。
次いで、ほとんどのスキンケアアイテムにたくさん配合されている有名な成分「グリセリン」。
こちらはなんと3倍に及びます。
その次は、これも石けん系の洗顔クリームには必ずといって良いほど使われている脂肪酸「ステアリン酸」。
こちらもサクっと2.5倍。
そして最後は、洗浄剤系の界面活性剤の原料としてよく使われている「パーム油」。
これは成分名では出てこなくても、洗浄剤に使用している界面活性剤のほとんどがこれを原料としています。
花王さんあたりが雑貨洗浄品の価格改定を強いられたのも、これの影響ですね。
これも2倍になっていますので、あの程度の値上げは仕方のないことと分かります。
まとめ
以上、化粧品の中身に使われている成分そのものが大きくコストアップしている事例をあげてきましたが、これはほんの一部の身近な成分の一例をあげただけで、ほぼ全ての成分が同様に値上げされているのが現状です。
私達のところに入る仕入れ段階では原料メーカーさんも企業努力をされており、中には10%レベルというのもありますし、1.5倍にも及ぶ原料もあります。
おそらく企業勤めをご経験されているユーザーさんであれば、驚かれた方も多いことでしょう。
既にこの状況では、工場さんや販売会社さんの利益圧縮で価格を抑えることは、不可能なレベルとなっていることがお分かり頂けたと思います。
今回はいよいよ化粧品の価格も定価ベースで値上げをせざるを得ないところに来ているというお話をしてきました。
前回、原料品質の問題をとりあげて一石を投じましたが、この状況で各工場さんがどういった対応をとられるのかは見えません。
ただ、良い品質の製品を使って自身のお肌を守りたい欲求を満たすには、相応の出資もやむを得ないと考えて頂くことだけ提言して、今回の記事を終えたいと思います。
ではまた次週。
by.美里 康人