美容業界の「タンパク成分」は
いよいよ佳境に入ってきます。
■ペプチドの復習
前回は美容のアンチエイジング的効能に対して
能動的なアプローチを期待するグロスファクター系成分
つまり総称して「ペプチド」と呼ばれる成分の解説をしてきました。
ただ、実際上はこうしたグロスファクター成分は
生物から採取して分化され、市販化されているわけではなく
類似物質として化学的に合成されています。
例えばタンパク成分部位にしても
ほとんどのグロスファクターは
アミノ酸が数個レベルの残基で成り立っていますので
ヒトが持つ因子の構成アミノ酸の種類と配列が
100%精密に再現されているか私には分かりません。
まぁ、とはいえ医療の分野では
細胞の受容体がそれでも因子として認識するケースも確認されていたりで
実際上は細胞活性への効果の可能性がないとは言えない
というところかもしれません。
■そして全体の復習
さて、化学的には「ポリペプチド(PPT)」と呼ばれる
いわゆるタンパク質成分をお題として
ここまで話を進めてきました。
これは美容業界の歴史を反映しているわけですが
歴史の最初は、硬ケラチンである髪の毛
そして軟ケラチンである皮膚
これらを形成する繊維タンパク質をそのままのカタチで
髪や皮膚に適用することで定着するかもしれない
もしくは、その基盤となるかもしれないとの期待で
美容成分として使われ始めました。
分かりやすくいえば「ヒト細胞組織の再現成分」が
出発点だったと考えれば良いでしょうか。
つまり、組織を埋めるという考え方ですね。
その代表的な成分が
ヘアケアでは「PPT」
スキンケアでは、「コラーゲンやエラスチン」だったわけですね。
しかしながらこれは
「ポリ」がつくのでお分かりの通り
高分子のタンパク質ですので
整形手術のように髪や皮膚の中に導入されるわけではない。
ならば導入(浸透)されやすいように
アミノ酸が数個から10個レベルにまで小さくしてあげれば
細胞組織に導入されやすくなるとの発想から
ヘアケアでは「オリゴペプチド」
スキンケアでは「加水分解コラーゲン」や「トリペプチド」などが
開発されたわけです。
これらはいずれも
アミノ酸個数が数個から数十個レベルにまで小さくなった
小さい分子のタンパク質と考えれば良いわけですね。
その過程においては
例えばヘアケアの場合は実際に髪が太く強くなるといったエビデンスや
皮膚の場合は一部で酵素活性が高まったというエビデンスが得られ
医学的見地では到底あり得ない現象であるはずが
細胞の定着や生理活性に繋がるなんらかの不確定要素が
きっと関与していたのだろうと推論されていました。
そしてそれはさらに進化し
こうした小さな構造のタンパク成分は
細胞増殖因子へと進化させることで
細胞の増殖に積極的に働きかけられるかもしれないとの発想から
あらゆる合成のペプチドへと
進化を遂げてきたことになります。
そして美容業界のタンパク成分も
いよいよ最終形へと進化してきます。
■そして幹細胞成分
iPS細胞技術の話題は皆さんもよくご存じのことと思いますが
この再生医療技術の中でもっとも注目されたのが
あらゆるグロスファクターやサイトカインを作り出すことができる
「幹細胞」。
これはさらに凄い考え方で
グロスファクターそのものを増殖する幹細胞を
美容に取り入れようという理論。
最初の出発点は植物から。
これなら比較的容易に幹細胞だけを取り出すことが可能なため
その植物が持つ因子の機能を美容に活かそうと
あらゆる幹細胞エキスが市場に出てきましたね。
しかし、美容業界がここまでで満足するわけはありません。
「もしもヒトの皮膚細胞から採取された幹細胞を使うことができたならば」
誰しもが考えるとことですし
ものすごいことが起きそうな予感がする成分と言えます。
そして出てきたのが
「ヒト幹細胞順化培養液」
で、究極であるのは間違いありませんが
ちょっと待って
まだ誤解されているユーザーさんも多いようです。
これはあくまでヒト幹細胞の「培養液」であって
人間の幹細胞を含むエキスではありません。
医療の分野で人工的に幹細胞を培養している
その上澄み液です。
つまり、この培養液から幹細胞を除去した
残り液というわけです。
■で、結論はどうなんだ
ここまで長々と説明してまいりましたが
ユーザーの皆さんの答えが欲しいのは
ここでしょうね。
ま、私はこの道の成分の専門ではありませんので
ぶっちゃけ分かるわけがありません(笑)
とはいえ
私が持つ皮膚科学や
皮膚の生理理論の知識の範囲で
推定できることはあります。
例えば、グロスファクターと言われる「ペプチド」。
すでに述べたように
仮に皮膚に存在する同じ因子を持つ成分が
皮膚内に浸透したとして
果たしてヒトの皮膚細胞因子と同じ働きをして
生理機能の活性化に繋がるのだろうか?
これは残念ながらヒトの細胞はよくできていて
仮に因子は同じものだとしても
主構成のタンパクが異なる成分で作られていれば
ヒトのDNAセンサーが自分のモノとして認識するのは困難です。
これは言い切れます。
つまり、異物として認識して
排出されてしまいます。
例えば分かりやすい説明をすれば「移植手術」
皆さんも耳にしたことがあると思いますが
移植手術でもっとも難題なのは
「適応性」であり
つまり「拒絶反応」なんですね。
まさにヒトから採取した細胞組織を
ヒトへと移植しているにも関わらず
拒否反応を起こして細胞の同化に障害が出るのが
この現象です。
ヒトからそのまま採取した細胞であっても
他人の細胞は受け付けてくれないことがあるわけです。
それ位、繊細なんですね、ヒトの免疫機能って。
というわけで
まず間違いなく化学的に合成された因子は
ヒトの細胞のセンサーが受け付けてくれないでしょう。
そんな簡単に同化するのならば
医療の世界ははるか先に進歩を遂げています。
EGFあたりは塗布すると赤くなったりと
反応が出る方がおられるようですが
拒否反応の可能性も捨てきれません。
次いで最後に幹細胞。
まずは根本的な問題がありますね。
上で触れたように、皆さんが大きな期待を寄せる
幹細胞を含んでいる成分ではありません。
ならば効果がないのか?
早合点してはなりません。
医療の分野でもこの培養液には
幹細胞が生成される過程で得られる様々な因子や
サイトカインなどを含んでいることが確認され
これが疾病の治療に活用されています。
これは美容業界的にも全く新しいアプローチと言えます。
ただ、これも
本当に皮膚再生や細胞活性に関わる因子を含んでいれば・・・
という原則論は外せません。
また、この上清液ですが
医療分野で使用されているものは
きちんと細胞が活性化されている状態でなければならないため
細胞を除去した後すぐに
凍結乾燥保存されているそうです。
つまり、常温での保存や
まして防腐剤などが配合されると
失活してしまうことが確認されています。
また、サイトカインや因子が含まれているかどうかも
確認されていません。
もっといえば
その幹細胞を採取してきた部位は?とか
その幹細胞を採取してきたヒトは誰だったの?という
大きな問題も含んでいます。
脂肪細胞から採取された幹細胞の培養液が多いようですが
果たしてこの部位の幹細胞が保有していた因子で
皮膚のアンチエイジングに有効なのでしょうか?
まぁ、とはいえ確かに医療分野で利用されている
ホンモノの培養液が化粧品に使われていれば
これは美容効果としても大きな期待が寄せられる
可能性を秘めていそうです。
ただし・・・ここにもこの美容業界特有の大きな問題。
つまり、まがいモノの培養液も大量に出回っているそうで
ひどい原料になると
「培養をする前の培養液」という素材も存在するそうです。
確かに・・・
ビフォーかアフターというだけのことで
「ヒト幹細胞順化培養液」であることに
間違いはないのですが(苦笑)
ということで、今回のお題はこれにて終了ですが
最後に、「もしも・・・」というお話で終わりにしましょう。
■もしも「ヒト幹細胞エキス」だったとしたら?
それは「もしも、本当にヒトの幹細胞が含まれたエキスだったら?」
というお話。
ユーザーの皆さんはどう感じるでしょうか?
はい、これは実は残念な素材でしかないんですね。
なぜなら、ヒトの幹細胞の分化は
その組織に存在する細胞しか作れないため、です。
つまり、もしも脂肪細胞から培養した幹細胞だったとしたら
脂肪細胞しか作ってくれないというわけです。
そりゃそうですね。
分かりやすい表現をすると
心臓の組織の一部を切ったとして
そこに皮膚を切って貼り付けたところで
心臓の細胞が再生するわけはありません。
心臓の組織細胞と皮膚の組織細胞は全く別の細胞ですから。
そういう意味で非常に面白いのは
実は「植物幹細胞」です。
なんと、皆さんもご経験されているのです。
「挿し木」や「接ぎ木」という言葉を
ご存じですか?
植物の場合は
木の枝を土の中に植えるだけで
根や葉っぱといった
別の部位の細胞組織が作り出されるんですね。
人間の足や腕を培養しても
脳みそは作られませんから(笑)
これを専門用語で
「多能性幹細胞」と言い
動物にはない植物の幹細胞特有の性質なんです。
「ということは、植物の幹細胞エキスなら皮膚再生効果が期待できる?」
さぁ、どうでしょうね。
化粧品は夢を売る商品です。
今回のお話はここまでということで。
ではでは。
by.美里 康人