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“ナノ粒子がアブナい!”の真実とは

ナノ粒子02

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美里康人

ナノ粒子が皮膚内に浸透して
皮膚には危険?

こんな説の警鐘記事を、皆さんも一度はネット情報で見掛けたことがあるかと思います。
特に日焼け止めなどに使われている微粒子酸化チタンなどが、皮膚内に入り込むといった問題。
微粒子酸化チタンは以前にも取り上げ、海外の試験機関が皮膚内に入り込むことはないといったコメントも公開しており、私達技術者の間ではそれはあり得ないとの認識がほとんどです。
他にも美容業界では、お肌に浸透しやすくするための技術として“ナノ粒子”“ナノカプセル”といった言葉も目にされたことがあるでしょう。
いずれも消費者の皆さんにとっては、皮膚内に怖い成分が入ってこないか非常に気になる問題ですよね。

しかしながらこれは皮膚の内部のことですので、その真意を証明する手段もなかなか難しく、ユーザーの皆さんはその正しい証拠を目にすることもありません。
結果的にいまだ”???“なユーザーさんの心理を利用して、「ナノ粒子は使用していません」といったうたい文句をブランドコンセプトとしてPRしている製品もあるようです。

今回は、私達技術者はなぜあり得ないと考えるのか、その真意を簡単に見極めるものさしのお話をしていきましょう。

分子量は500以下の説

成分が皮膚の深部に浸透するか否かのものさしとして、この基準は皆さんも目にしたことがあると思います。 こちらのブログでも何度か取り上げてきています。
まず、これは皮膚科学の世界でエビデンスをもとに昔から言われてきていることですので、皆さんも一致して信じてよい論点です。

皆さんもよく知るものさしとして分かりやすい基準を示すとすれば、例えばアミノ酸
アミノ酸も色々な種類がありますが、いずれも分子量はおよそ100~200程度です。
いわば、皮膚内浸透が達成できる分子の、およそのボーダーラインあたりになるサイズですね。
一覧にしてみましたので、参考までに。

アミノ酸

そしてここ数年、アンチエイジング成分としてよく耳にするこういった成分。

 ・トリペプチド〇〇〇
 ・オリゴペプチド〇〇〇

これらはいずれもアミノ酸が数個から10個程度連結した分子の小さなタンパク(ポリペプチド)で、これも掛け算すると分子が500~1000あたりになりますので、皮膚に浸透するかしないかのボーダーラインあたりと考えてよいですね。
ということは、可能性は十分にあるということ。

皮膚を構成しているケラチンやエラスチン・コラーゲンなどはこれがさらに一桁以上大きくなってしまいますので、これはもう完全に論外なレベルということになります。
以前の解説記事をお忘れになった方は、再度こちらを確認しておいて下さい。

化粧品とコラーゲンの話(前編)
https://cosmetic-web.jp/column/collagen102/
化粧品とコラーゲンの話(後編)
https://cosmetic-web.jp/column/collagen101/

とはいえユーザーさんの立場になってみれば、こうして「分子量が・・・」などと基準を示されても、例えば上の“ナノ粒子”は大きさの単位ですから、mm(ミリ)やm(メートル)を想像して頭を捻ればその大きさはイメージできるでしょうが、分子量と言われても基準が分からないと思います。

そこで新たなものさしを提言していきます。

分子量と大きさの関係

さて、成分の大きさなんて人間の目に見えるレベルではないので、想像もつかないと思いますが、果たして成分が皮膚のどこまで浸透する可能性があるのか、ここは皆さんも非常に興味があることでしょう。
そこで、多少なりともイメージできるものさしを示していきましょう。

上で説明したアミノ酸は皆さんにとっても身近な成分ですし、なおかつ上で分子量をまとめました。 となると、このアミノ酸の大きさがどれ位なのかが分かると、基準ができてきますね。

で、アミノ酸の大きさはおよその推定がなされていて、実は0.5nm(ナノ)以下で0.2nm程度と検証されています。
*以下、分かりやすいようにnmは”ナノ”と記していきます

ようやく想像がつきそうな「ナノ」という単位が出てきましたね。
これで一気に基準が掴めそうですよ。
さぁ、化粧品に使われている話題の成分の大きさを拾っていきましょうか。

まず、ヨーロッパでは法的な規制の対象となりかけている、もっとも話題の日焼け止めに使わている微粒子酸化チタン
これはすでに原料メーカーからきちんとサイズが公開されていまして、平均して30ナノ程度、さらに微細化した”“微粒子酸化チタンでさえも10ナノです。
危険性を提唱している学者さん方は、酸化チタンを分子量から試算して論理的に浸透する可能性と、「微粒子」「ナノテクノロジー」といった言葉に着目したのかもしれませんが、粉体の素材である酸化チタンは粒子がたくさん寄り集まった固形粒子ですので、分子量とは完全に切り離して考えないといけなく、この実際の大きさがものさしなのです。
いくらナノテクノロジーっていったって、皮膚に浸透する基準のサイズとは比べものにもなりません

次に、コーセーさんをはじめここ10年程で美容業界でも一気にメジャーになった、ナノテクノロジーカプセル技術の”リポソーム“。
こちらはコーセーさんも平均の大きさを公開しており、およそ100ナノレベルで調製されています。
私達が自社で作成しているリポソーム製剤もだいたいこのレベルで、化粧水ならば100~150ナノレベル、内包成分の影響によって大きくなったもので200ナノレベルになっています。

つまり、微粒子酸化チタンでもおよそ皮膚に浸透を果たしそうな基準となるアミノ酸分子の100倍以上、リポソームに至っては500倍以上の大きさということが分かります。
分かりやすく例えると。
直径1センチのビー玉を、仮に浸透するボーダーラインのアミノ酸とすると、微粒子酸化チタンは運動会で転がした大玉転がし競争の玉くらいというわけです。

ナノ粒子03
これが皮膚に浸透する可能性があるのかなんて、議論の余地すらないと思うのが当然なんですね。

まぁ、”とはいえ・・・“という問題もありますので、それはまた後ほど。

日焼け止め成分の方はこれで安心してよいことが分かりましたが、一方のリポソームの方は逆に不満材料でしょうか。

--え? 角質層の深部にまで浸透するという技術ではなかったの?

この項では大きさの話題をとりあげていますので、まずは粒子の大きさでは全く浸透する大きさではないと理解して頂いて構いません。
こちらも”とはいえ“なメカニズムは後ほどということにして、まずは大きさの基準をまとめていくことにします。

こうしてものさしが見えてくると、例えばコラーゲンタンパクあたりはアミノ酸が数千個も連なっていますので、もう全く規格外。
他にはヒアルロン酸なども数十万から数百万分子ですので、こちらもサイズ的に全くの圏外と分かります。 ヒアルロン酸は低分子とかマイクロといった言葉で浸透しやすいとPRされている製品なんかも見掛けますが、残念ながらここまで解説してきたものさしをあてがうと、それもおかしいことに気付きます。
ヒアルロン酸は一分子単位で分子量がおよそ400ですので、これならば浸透の可能性もおおいに出てきますが、残念ながらもっとも低分子と言われるヒアルロン酸でも一分子単位のこれがさらに1000~2000個が連なったポリマー(高分子)ですので、これも当然圏外となります。

というわけで粒子の大きさのお話はここまでですが、以前にも皮膚浸透のメカニズムは大きさだけではなく、他の条件が大きく左右されるという解説をしています。
というか、むしろ実はこちらの方が優先順位が高く、ポリマー(高分子)粒子でない限りはこちらの条件の方が重要である説明をしておきましょう。

とともに、もうひとつの条件

こちらのブログでは何度となくとりあげてきましたが、角質層の深部やさらにその奥の真皮層、さらには血管といったところにまで薬剤や化学物質が届くかどうかは、ここまで述べてきた粒子や分子の大きさ以上に、「生体親和性」が重要なものさしの条件です。

例えば皆さんもよく耳にする、”油と水“もその同じ課題です。
水性成分よりも油性成分の方が皮膚への親和性が高くなじみやすいとよく言われるのが、コレですね。

で、この生体親和性にもふたつのケースがあります。

1)生体内制御との関係性
 2)皮膚の構造との関係性

難しい言葉を使いましたが、ようはこう考えれば分かりやすいですね。

1)生体内制御
基本的に皮膚の生体としての機能は、皮膚の内面から外へ外へと進化する「排除・排泄機能」が大原則です。 最終的な進化が死んでしまった角質層で、日々はがれていくことがこの典型的な機能です。
そのため、皮膚の生体は化学物質を受け入れないことが大原則になっています。
この皮膚が持つ制御機能を薬剤によって意図的に狂わせることによって浸透させる、浸透メカニズムです。

もっと分かりやすく言えば、こういうことです。
「はい、喜んで!」と生体が判断して受け入れるのか、「あ・・・コレはカンベンして!」と生体が拒否してしまうのか、というのが分岐ポイントです。

2)皮膚構造
これは上で書いた油か水かというのと同様に、皮膚の構造となじむかなじまないかといった課題です。
皮膚はタンパク質と脂質が構造のメインになっていますので、これらと親和しやすいかどうかが分岐点となります。

この2点をあてがい、例えばヒアルロン酸の例をあげると、もともと皮膚の中にはヒアルロン酸が生存していますし、なおかつ作り出している機能も持っています。
ということは、分子の大きさが多少大きくても、喜んで受け入れてくる可能性があるということになるわけです。
実際に浸透を果たすかどうかは、エビデンスを採取してみないと何とも言えませんが、可能性は否定できません。

この典型的な例がDDS(ドラッグデリバリーシステム)技術の”リポソーム“で、粒子の大きさが100ナノ以上であろうが、リポソームは細胞膜や血管の膜と同じ設計の構造でできていますので、まさに「ようこそ~♪」と受け入れてしまうというわけですね。 昨今では「巨大単一リポソーム」といって、1マイクロ(1,000ナノ)の医薬品リポソーム技術も開発されています。
この技術によって、皮膚に塗布する抗ガン剤などの開発へと、医療分野で応用がどんどん進んでいます。
そしてここ1・2年は、角質バリア層と細胞間脂質のラメラ構造と同じ設計をしてあげると、同様に「ようこそ!」と認識してくれる乳化技術が、化粧品業界の新たな新技術です。 これまでもご紹介してきた通り、大手ブランドさんがこぞって研究を進めていますね。
メディアでも取り上げて頂いた私達のHC-Rエマルジョン技術もコレで、時代に先んじてどんどん開発と採用が進んでいます。

ということで、これで少し皆さんの皮膚浸透への理解が高まれば幸いです。
以前の解説記事も、ご参考に。

ナノコスメを知る 秘話8
https://cosmetic-web.jp/column/nano-technology-8/

そして最後に

最後になりましたが、最後に述べた生体親和性にもものさしをあてがって日焼け止めやメイク製品に使わている微粒子酸化チタンを精査すると、もう皆さんも判断に困ることはありませんよね。
金属である酸化チタンを皮膚が喜んで受け入れてくれるはずもなく、分子のサイズとともに皮膚との親和性も全くありませんので、全くもって心配の必要はないということが分かります。

さてGWです。
次回のブログはひょっとしたら遅れるかもしれませんし、全く関係のない記事になるかもしれませんが、今後ともお付き合い頂ければと思います。

ではまた次週。

by.美里 康人

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