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冷暗所って、冷蔵庫?

化粧品冷蔵庫

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美里康人「冷暗所保存」

ならば冷蔵庫へ

よく耳にしますが、問題はないのでしょうか?

 

化粧品の注意書き

今どきは、化粧品を手にされると裏側には注意書きを含めズラズラと文字が並んでいるのをみますよね。
皆さんは、全部読まれていますか?

とにかく文字がびっしりですので読んだこともないユーザーさんも多いかと思いますが、これらは責任表示と呼ばれて、トラブルが起きた時に大きな事故とならないよう、注意書きが多くなっているためです。
まぁ、昨今は世の中のあらゆる商品にこういった責任表示の文面が大量に記載されていて、ひどいケースになると説明書の見開き2ページはすべて注意書きといった例も、多くみられます。

さて今回はその中でも、ユーザーの皆さんもよくご承知の化粧品の保存方法「冷暗所保存」という言葉の意味について取り上げてみたいと思います。

とはいえ、こんなこといまさら・・・な感はありますよね?
ところが、実際に直近で「これは正しく理解頂いておかないといけない・・・」と感じた実例を経験したのです。

最後までお読み頂くと、意外な事実がみえてきますよ。
目からウロコな事例もありますので、ユーザーさんや化粧品企画のお仕事をされている方にとっても参考になるかと思います。

化粧品の保管方法 ~まずは「暗」~

で、化粧品には「冷暗所保存」といった言葉が使われて、購入後はこうした条件の場所に保管することを推奨されています。
これはもう皆さんもよくご存じでしょう。
でもあらためてその具体的な場所を考えるとなると、皆さんはどこに保管されておられるでしょうか?

これが実に様々であることが分かり、ユーザーの皆さんにはもう少し具体的な情報を知っておいて頂く必要性を感じました。

その条件のひとつ、まずは暗所についてとりあげてみましょう。

暗所と言われると、本来はドレッサーであれば扉のある場所の中だとか、引き出しの中といったところがこれに該当しますが、でもどうでしょう?
実際はすぐに手が届く、ドレッサーの上に放置されている方も多いのではないでしょうか。

まぁ、化粧箱に入っているおニューの状態であれば光は遮断されていますので問題もありませんが、箱から出してしまうと蛍光灯の光には晒されます。
それでも容器が不透明であればこれもまた光は入りませんが、化粧品には透明な容器に入った商品もたくさんありますね。

これ、やはり問題があります

たかが蛍光灯と思われがちですが、実は意外と紫外線を含んでいます。
もちろん、外出した時のように目に見えた日焼けに至るほどではありませんが、化粧品の中身の成分を変質させるだけの量は、十分に含まれています。

実際に私達は化粧品の中身の安定性試験を行いますが、透明な容器に入れて実験台などに放置しておくと、紫外線に影響をうけやすい成分は変質し、色やにおいが変化してしまうことはよく経験しています

身近な成分では、植物オイルです。
紫外線が触媒として働いて、酸化が大きく促進されるのはよく経験することですね。

化粧水などはパっと手にとれるところに置いておきたいお気持ちは大変よく分かりますが、できるだけ光のあたらない場所に入れておくことをオススメしたいですね。
酸化されたり変質した成分は、お肌によい影響を与えることはありませんので。

また、ファンデなどのメイク品であれば、色が変わってしまうこともありますので、要注意です。

化粧品の保管方法 ~問題の「冷所」~

そして次が、実は結構な問題を含んでいる冷所です。
最初にもう、結論から書いてしまいましょう。

温度の低いところがよさそうだと、化粧品を冷蔵庫に入れておかれている方はおられませんか?

これは確かに暗所でもありますし、温度の高い場所に比べれば化粧品にとってはお優しく、品質にも影響しにくい場所であることに間違いはなく、意外とこの場所がよいと感じておられるユーザーさんは多いようです。
まぁ、実際には食品を保存する場所でもありますし、現実はここに保管されておられなくても、冷蔵庫がベストと認識されているユーザーさんは大変多いと思います。

一応、こちらのブログはサイエンティフィックなアプローチからのお話を中心にしていますので、その科学的根拠も列記しておきましょう。

・菌の繁殖が遅い(”ない”ではないことに注意)
・成分が変化しにくい
・分離といった品質劣化が起こりにくい

微生物は、温度が低いと繁殖しにくくなりますので、これはもう一般的とお分かり頂けるでしょう。
ただし冷蔵庫のお餅にもカビが生える通り、あくまで繁殖が緩慢というだけで、完璧ではないと思っておいて下さい。

そして成分が変化しにくいのは、化学反応は温度と正比例するというのがこの世界の常識であることが根拠になります。
例えばオイルの酸化なども同じで、低温の条件下では反応は進みにくくなります。

最後の物理的な劣化についても、科学の世界ではブラウン運動といった分子の活動が温度と比例することから、温度が低い方が劣化しにくい根拠になります。

ということで、化粧品を冷蔵庫に保管するとメリットも多いですが、実際にはこの低温下になるといくつかの課題が出てきます。

化粧品の保管と家庭用冷蔵庫の課題

さて、皆さんの自宅の冷蔵庫を実際に想定していくと、化粧品を保存する上でいくつかの課題が出てきます。
その課題の中心は、「温度」です。

最初に念を押しておきますと、当たり前と怒られそうですが、まず冷凍庫はNGです。
まぁ、説明するまでもなく凍ってしまいますので、これは当然のこととしてNGと分かりますね。

それでも中には「凍っても溶ければ使えるのでは?」とおっしゃられるユーザーさんもおられるかもしれませんが、これは誤解で一度凍結してしまうと元に戻らない処方設計の化粧品はたくさんありますので、使えなくなるケースも多いと思っておかれて下さい。

いまどきは「凍結発送」なんていう特殊なコンセプトのコスメもあったりしますので、ほかのコスメでもアリなのかな・・・などと、誤解されないようお願いしたいです。

では、冷蔵庫に限定すればどうでしょう?

上の冷凍庫と同じ感覚で、実はユーザーさんの中には温度が低いほど条件が良いと思っておられる方が多いことに気付きます。
ここに目を向けて冷蔵庫の温度は?と問われると、実はご存じない方が多いんですね。
もしくは、間違って認識されておられる方も多いかもしれません。

実際のところの温度はどうでしょう?
グダグダ書くよりこちら。

冷蔵庫の温度

これが実際の冷蔵室の温度です。

まぁ、強弱の調整もできるようになっていますので誤差はありますが、メーカーの設定温度がだいたいこの5℃あたりにされているのが一般的です。

温度が低いといいことばかりではなく、実は逆のリスクもあります。
5℃といえばかなり低く、実は市販商品によってはオリが析出したり成分が沈殿したりといったことが起きかねない温度帯なんです。
温度と物質の溶解性も比例関係にありますので、つまり成分の溶解性が下がって析出するという現象ですね。

もちろん、大手ブランドさんではきちんとこの辺りも踏まえて設計されていますし、しっかりと抜かりなく試験もされているはずですので起きえない温度帯ですが、中小メーカーさんや、もっといえば特異的なブランドコンセプトをお持ちのメーカーさんになると、中身が変化してしまうことも十分にあり得る温度帯です。

身近な例でいえば、シャンプー洗顔クリームといった洗浄系製品は界面活性剤が多い処方ですので、このトラブルの可能性は非常に高くなるのがセオリーです。
まぁ、さすがにシャンプーを冷蔵庫に保存される方はおられないでしょうけれど(笑)

他にも完全無添加コスメや、オーガニックといった指向性の特殊なコスメの場合には、起こり得ると考えておく必要がありますね。

昨今は、ブランドの差別化のためにグリセリンやBGといった成分も無添加といった指向性の製品もあり、こうした製品は特に注意が必要になります。
というのも、BGやグリセリンといった成分は単なる保湿成分ということではなく、0℃になると凍ってしまう水の性質を改善する役目も果たしているからです。
北海道では0℃以下になるのは普通ですので、化粧水が凍ってしまった・・・なんてことになると大変ですからね。

化粧品のそれぞれの成分は、成分解説では「保湿成分」とだけしか書かれていなかったりしますが、実は「体をなす」ための重要な機能を持っている成分がたくさんあるんですね。

というわけで、5℃という一般的な冷蔵室の温度では、品質に影響する可能性もあると説明をしてきましたが、冷蔵庫と一言で括ってしまうと他にもリスキーなことがあります。

それは、昨今の冷蔵庫は冷蔵室以外にもチルド室といった、特殊な保管室を持った製品も多いという点です。
温度を意識せずに、低い方がいいと思ってそういった場所に保管すると、さらにトラブルの可能性は高くなります。

そういう意味では、最近は野菜室が別になっている高機能の冷蔵庫も増えていますね。
実は、本来は化粧品の保管はこちらがもっともオススメ。

実際の温度がこちら。

だいたい、メーカーさんでは8℃から10℃に設定されていまして、これは化粧品にとっては非常に条件の良い保管場所といえます。
お題のキャッチ画像に映っているのは、化粧品用の冷蔵庫ですね。
可愛らしいデザインになもなっていて、温度は10℃前後をキープするように設計されているのだそうです。
まぁ、市場にはこの低温でも品質劣化を起こす製品が存在するかもしれませんが、申し訳ありませんがそんないい加減な品質のコスメ製品は、論外NGと判断されるのがよいと感じます。

ということで、ここまで化粧品の冷蔵庫保管の課題についてとりあげてきましたが、なによりもっとも問題なのは、「冷所」という言葉にものさしがないことですね。

ユーザーさんの立場になってみれば、低ければより良いと判断される方もおられると仮定してなくてはならず、それは冷蔵庫にしてみたところで同じで、冷蔵庫がよければ冷凍庫でもチルド室でも良いと判断されてしまう可能性を考えると、冷蔵庫への保管を推奨するのは課題を残してしまうという、化粧品企画の職務の方々にもご参考になるお話でした。

ではまた次週。

by.美里 康人

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