週3で異なる目線の美容記事をお届け
美里康人
化粧品には多くの種類のアルコールがあるというお話
掲題の「アルコール」という言葉が今回の話題。
本来はエタノールなのに、一般的な使い方としてアルコールという言葉に置き換えてしまっている風習を、是正した方が良いのでは?という提起の記事です。
なぜなら、身の回りには他の種類のアルコールもたくさんあるからです。
その辺りの解説をしていきましょう。
この記事の目次
エタノールとアルコール
もう既に皆さんもご承知の通り、どこでもよく見掛けるこのアルコールという言葉は、本来は「エタノール」ですね。
でもまだここに誤解が多く残っていて、これは単に呼び方を変えただけで「アルコール=エタノール」なのだと誤解されている方も多いようです。
つまり呼び方を替えただけ、と。 これは実は間違い。
正しくは、アルコールという言葉はある種の化学的な構造の特長を持った物質を総じて名付けられた化学用語であって、決してエタノールを限定した化学名ではありません。
言い替えという意味では、エタノールは正しくいえば「エチルアルコール」がフルネームみたいなもので、「エタノール=エチルアルコール」は正しいと言えます。
なぜエタノールのことをアルコールと言い替える風習が定着したのか、その歴史背景までは定かではありませんが、もともとはお酒に含まれているエタノールを「アルコール度数」といった言い方で書き記してきたことから、始まっているのかもしれません。
この習慣は実際の食品表示基準にも利用されていて、酒類の表示は「アルコール分」という表示方法が適用されています。
例えば日本酒のエタノール濃度の多くは15%前後ですが、【アルコール分(または度数):15%】といった表記が必要です。
これは酒税法の法文を見れば分かる通りで、昭和15年に制定された当時からこの言葉が用いられていましたので、少なくてもこの時代以前からの習慣であったことが読み取れます。
まぁ、この酒類特有に明記されるエタノール濃度の風習は日本だけでなく海外でも特異な表示がなされていて、イギリスやアメリカでは「プルーフ」という言葉が用いられて、さらに度数も%そのままではなく2倍(アメリカのケース)の数値が明記されています。
こちらもどのような経緯でそうなったのか、定かではありませんが。
というわけであくまで憶測の域を出ませんが、本来はこの酒類に用いられていたアルコール濃度はエタノールを限定するものではなく、中には不純物として他のアルコールが含まれていた可能性も否定できず、“トータルアルコール量”という意味だったのかもしれませんね。
もっといえば、ただ単にエタノールなのか他の化学構造のアルコールなのか化学分析できる技術もまだ確立されていなかったことから、いわば曖昧な言葉を用いることになったのかもしれません。
と、色々と歴史を妄想すると面白いですが。
本当の「アルコール」の意味
ここまで、本来はエタノールと呼ぶべき言葉がアルコールと言い替えられてきた歴史をお話してきましたが、ここからはきちんと正しい化学の用語としても通用するように、解説を進めていきましょう。
というのも、化粧品の全成分名称はやはり化学名を由来としていますので、覚えておいて損はありません。
では、本来のアルコールの意味を説明しておきましょう。
それはエタノール(エチルアルコ-ル)の構造式をみれば分かります。
はい、この中には赤で囲んだ「-OH」という化学記号がくっついていますね。
これは日本語では「水酸基」、化学の命名法では「ヒドロキシ基」と呼ばれる化学基盤で、これがくっついている化学物質を全て「アルコール」と呼んでいます。
いや、正確には左側の「-C-C-」となった部分も原則がありますので、必ずしも“全て”ではありませんが、まぁユーザーさんが持っていて損はない範疇の知識ならば、ほぼこれに該当すると思って頂ければよろしいかと思います。
例えば下側がこんなことになっていると、今度はこれは「フェノール」と呼ばれますが、まぁそれは今日は置いておきましょう。
ということで、この化学構造を正しく呼ぶとしたら左側は「エチル基」ですので「エチルアルコール」と呼び、それを略して「エタノール」と呼んでいるというわけですね。
つまり、左側のカタチが変わるにつれ呼び名も変わっていくという仕組みです。
他のアルコールとはどれ?
さて、上で示した化学構造のお話なんて面白くもないですし、ユーザーの皆さんにとっては接触する機会もなく全く興味ナッシングなのも当然のことだと思いますので、ここからは化粧品のお話へと入っていきましょう。
ここまでアルコールと呼ばれる由来のお話をしてきましたが、化粧品には他のアルコールもたくさん使われています。
せっかく、アルコールの表示名称でもある正しい呼び名の「エタノール」と覚えて頂いたのですし。
で、化粧品の成分でもっともよく使われて身近な成分が、実はまさにアルコールの一種なのです。
二つあげますと
・BG
・グリセリン
驚かれるかもしれませんが、ほぼ100%に近いスキンケアコスメに配合されていますね。
これらがなぜアルコールの一種なのかは、学術的にこれらを正しい呼び名に変えると見えてきます。
・BG→1,3-ブチレングリコール
・グリセリン→グリセロール
呼び名中の最後が「〇〇ール(~ol)」となっているので、これがアルコール成分の化学的な呼び名の特長です。
おや? そういえば、化粧品にはよくグリコールという言葉が出てきますね。
上のBGもそうですが、〇〇〇グリコールという名称がよく見られますが、これら全てアルコールの類いということです。
一応、その由来となる構造式も出しておきましょう。
ありましたね、-OHが。
ちなみにせっかくなので。
この二つはよく見るとエタノールと異なって、BGは2個、グリセリンは3個の-OHくっついていますね。
ひとつではなく複数の数がくっついていることから、こういったアルコールを「多価アルコール」と呼んでいます。
逆にエタノールは1個しか-OHがないので、「1価のアルコール」と言い替えることができます。
ここまで解説してくると、BGやグリセリンがエタノールのような溶剤みたいなものと感じてしまい、ちょっと怖くなったりされていないでしょうか。 フリーの化粧品がいいな・・・などと。
いえいえ、化学の世界は少しカタチが変わってくると全く性質も変わってしまいますので、ご心配なく。
左側のカタチが大きくなるほど溶剤としての性質は影を潜めてしまい、むしろ以前にも記事にしたように水素結合として水を呼び込むチカラが備わることになり、保湿成分として働いてくれるというわけです。
つまりは、どれだけ溶剤としての役目を果たすかは、左側と-OHとの大きさのバランスで決まると考えればよいのです。
なので、皮膚に悪さをするようなことなどありません。
他にはペンチレングリコールやDPG(ジプロピレングリコール)といった多価アルコールもよく見掛けると思いますし、保湿成分として頻繁に使用されています。
では、逆のその最たる例は、左側が逆にもうひとつ小さいメタノール(メチルアルコール)も見ておきましょうか。
これくらい左側が小さいと揮発性もうんと高まり、石油といった燃料なみに溶剤として強くなり、引火しやすいですし危険な溶剤となるのです。 もちろん飲むことなどできませんし、簡単に死に至ります。
実際、キャンプなどで使う加熱道具の燃料として使われていてその怖さは分かりますし、手指のアルコール消毒剤として決して使わないよう、政府からも広報が出ていましたね。
そして油にも?
ここまでアルコールについてお勉強を進めてきました。
で、最後にまだBGやグリセリンに対して、アルコールと同様の怖さを感じておられる方のために、化学構造が少し異なることでそんなに変わるんだということをご説明しておきましょう。
上でも書いてきた“左側のカタチとのバランス”。
これがもっともっとさらに左側が大きくなったものとは?
はい、これが皆さんも一度は目にしたことがある「高級アルコール」。
高級なアルコールという意味ではないですよ。 左側のカタチがうんと大きいアルコールを、こう呼んでいるんですね。
もうこうなるとここまでの多価アルコールとは性質も全く異なり、水にも溶けない「油」ということになります。 化粧水や美容液といった水モノコスメに使われている保湿成分とは、性格も機能も全く違いますね。
そう、左側のカタチが大きくなればなるほど、どんどんと油に近づいていくというわけです。
例えば、皆さんのお手元にある食用油に化学的に-OHを1個くっつけてあげるだけで、それは高級アルコールという名前に変わって、クリームや乳液・コンディショナーといった油分が配合されている乳化化粧品にたくさん使われています。
・セタノール
・ステアリルアルコール
・硬化ナタネ油アルコール
・アラキルアルコール
これらも全てアルコールということになりますし、ホホバ油のホホバアルコールなんていうのもありますよ。
ご家庭でお使いのオレインリッチとか、ハイオレインなんていう食用のひまわり油も、-OHをつけてあげれば「オレイルアルコール」となるのです。
ざっくり書くとこんな感じ。
-C-の部分が合計18個も連なっていて、これはもう完全に油でここまでのアルコールの概念からはほど遠いことがお分かり頂けるかと思います。
つまり・・・酒類に表示されている“アルコール分”という言葉は、やはりちょっとどうかな?ということになりますよね。
早々にこの風習は変えるべきだと思う、美里でした。
ではまた次週。
by.美里 康人