最近のNG成分に
グリセリンをあげる方が。
なぜ嫌われるようになったのでしょう。
まず最初に、前回の記事の内容についてユーザーの皆様に誤解を招かないよう、一点だけフォローをしておきます。
以前からこちらをご利用の皆さんはよくご承知ですが、私自身は合成ポリマーや界面活性剤を悪者と思っていませんので、ここは誤解頂かないように致します。
私達が化粧品の設計開発にあたっての考え方として、お肌に悪いものではないけれどできるだけスキンケア理論に叶う化粧品開発がしたいことと、ご依頼頂くメーカーさんが売りやすいコンセプト設計を構築したいからに他なりません。
つまりは、「ないに越したことがない成分は、最初から外して製剤化しておきたい」ということですね。
ということで、早速今回の本題です。
保湿の代表選手が奈落の底へ
さて、あらためて今回はお題にあるように、最近になってグリセリンを避けるユーザーさんの声をよく耳にするようになったという話題です。
こういう時、そんな方々には「理由はなんでしょう?」とつい聞きたくなるのですが、今のところ明確な根拠を耳にしたことはありません。
美容業界の長年の流行り廃りを見てきた自分としては、最近の飲食の業界と同じ世相の一端なのではないかと、つい勘ぐってしまいます。
熟成肉→タピオカミルクティ→サバ缶→バナナジュース…。
外食産業を盛り上げるために、次々と仕掛けられるブームやトレンドですね。
都内になると次から次へとブームにのって店舗形態を変えていき、今どきは1年として続いている店舗はほとんどないとまで言われています。
つい1ヶ月前にテレビで行列店として取りあげられたはずなのに、すでに閉店している…なんていうのは日常茶飯事です。
で、美容業界にもこれに似たようことはあり、美容成分がまさにこれに該当します。
毒へび由来の成分なんて、皆さんも懐かしく感じることでしょう。
いまやOEM工場さんの原料倉庫には、ほこりを被ってひたすら保存期限を迎えて廃棄されるのを待っている状態です(苦笑)
これはユーザーさんにとって配合して欲しい方の成分ですが、一方で「NG成分」の方にもこうしたトレンドは存在します。
その昔は「表示指定成分」でしたが、今も次々と単品素材が取りあげられていきます。
そういう意味では、石油由来ということで「鉱物油は危ないブーム」もまだそう遠くない歴史でしたが、今ではもっとも敏感肌に良い保湿クリームとして、まさに鉱物油の代表「ワセリン」が流行り成分に大逆転するという、陳腐な現象まで起きているのが現実です。
まぁ、大抵は飲食業界と同様で、化粧品の中小メーカーさんが仕掛けた「危機感煽り戦略」と思って頂いて間違いありません。
前置きが長くなりましたが、今回はそんなグリセリンが非難を受ける意味があるのか、とりあげてみます。
グリセリンによるトラブル
まず最初に、グリセリンによって皮膚トラブルを招くことがあるという話題をとりあげてみましょう。
これはウソなのか?と問われれば、実は答えは事実です。
いえ…早合点しないで下さいね。
だからといって皮膚に危ない成分というわけではありません。
では、そういったケースを招く理由を明確にしておきましょう。
もともとグリセリンは、皆さんご存知のように有名な保湿成分ですね。
で、この保湿のメカニズムにその理由が隠されているんです。
それは「水和熱」という性質によるものです。
つまり、自分の周りに集める水分が不足してくると、空気中の水分だけでなく皮膚の水分も奪っていくことから、皮膚が水を取り込むときに水和熱で温かくなったり、敏感肌の方ならそのせいで血流が高まることでムズムズしたりという現象です。
グリセリンを薬局で買ってきて、そのままお肌に塗布したりするとこの現象が起きます。
ただ、だからといってこれによって皮膚トラブルを招くわけではありません。
もちろん、アトピー症状の悪性段階など、超過敏肌体質の方もおられるので100%とは言えませんが。
さらにこういった現象は、水が多量に存在する状態では起こりません。
水分がたくさんあるので、グリセリンもそれでお腹いっぱいですから。
なので、化粧品にいくら多量のグリセリンが配合されていても、水分の方が圧倒的に多いのでこうした事態におよぶことはありません。
水和熱が起こる分かりやすい例が、グリセリンがベースになった水分が全くないマッサージジェルです。
使用時にお客様がポカポカと温かく感じるため、エステサロンさんでよく使われているマッサージアイテムですね。
このポカポカ感が、水和現象によるものです。
これ、このジェルに水分を例え10%でも配合してしまうと、全く温かくならずにむしろ冷たく感じてしまいます。
つまり、グリセリンの水和現象が得られなくなるためです。
水和現象と保湿メカニズム
この水和現象ですが、もう一度念を押しますがお肌を潤す保湿性能と繋がりがあります。
さらにこの保湿性能は、きちんと化学構造から推定されるメカニズムから検証されています。
グリセリンは3つの水酸基(-OH)を持っていて、ここに水が水素結合することによって水分が引き寄せられるというわけです。
特にグリセリンの水素結合は強く、たったこの3つで1gあたり2.2gの水を結合させるとされています。
いわば、およそ2.5倍の水分を集めてくれるということになりますね。
というわけで、特に皮膚疾病を患っておらるような特別な肌質でもない限り、化粧品にグリセリンが入っているからと、避ける必要は全くありません。
仮にお肌に合わなかったり、トラブルを招く化粧品があったとしても、グリセリンに疑惑を向けるのは早合点かもしれません。
大抵の化粧水などは、全成分の水かBGの次あたりに配置されていて、配合量が多いのでそう思い込みがちですが。
他に、お肌に合わない成分が存在している可能性が高いと感じます。
例え後ろの方の表記で微量な成分であっても、反応することはよくありますので。
例えばレチノール(ビタミンA誘導体)あたりですと、0.1%で十分に皮膚トラブルの要因になります。
内臓器に悪影響の誤解?
もう一点はあくまで可能性ですが。
グリセリンは飲用するとお腹を壊す素材ですので、もしかしたらお肌にもよろしくないと解釈してしまっているユーザーさんもおられるかもしれませんね。
お腹を壊すくらいだから、皮膚にもよろしくないんじゃないの?といったところでしょうか。
あまりキレイなお話ではないですが、実はグリセリンは浣腸剤としても使用され、即効的に下剤として作用します。
上で書いた水和作用によって、便を軟らかくしてくれる効果を利用しています。
赤ちゃんの便秘改善にもよく使われますので、もちろん安全性は間違いなく、医薬品に使用されているということで心配されることもないと考えられるのが良いかと思います。
まぁ、それ以上に以前から記事にも書いていますが、そばや小麦・大豆といった自然のタンパク成分など、食物には多くの種類のアレルギー成分が含まれていますので、食物=皮膚に安全というわけではないですね。
またもっといえば、臓器の仕組みと皮膚細胞のメカニズムを一緒にしちゃってはいけません。
ということで、いまだに食べられるモノはお肌に優しい、そうでないものは危険だという都市伝説を信じておられる方もおられるようですので、グリセリンを悪者にするひとつの論理にされているケースも考えられます。
ということで次回は、グリセリンがお肌に害をおよぼすことがあり得ない、さらなる説明をしていきましょう。
実は皮膚内で生成される重要な成分であることに触れ、保湿成分としてこれまでなぜ当たり前のように使われてきているのか、皮膚のメカニズムから考察していきます。
ではまた。
by.美里 康人