美里康人
本来は植物のエキスというお話
今回は、化粧品に配合されている美容成分についてのお話です。
美容業界では薬機法に従って言葉を選ばないといけませんので「美容成分」と呼んだりしていますが、ユーザーの皆さんにとってはお肌に有用性のある効果をもつ成分のことですので、「有効成分」という言葉の方が分かりやすいかと思います。
例えば、美白に期待するコスメであったとしたら美白有効成分、肌荒れ防止に期待するのならば肌荒れ改善の有効成分、ということになりますね。
化粧品は医薬品的な有効性をアピールできませんので、表立っては効果を表記していませんが、一応そういった効果に期待できる成分は配合されていると考えて頂ければ良いですね。
今回は、この薬剤ともいうべき成分についての話題です。
この記事の目次
成分名は化学っぽいカタカナ
さて、化粧品にも配合されているこうした美容成分は、ほとんどが化学名に由来したカタカナな表記が多いかと思います。
なのでどうしても化学的に作られた合成の成分のイメージがあるかもしれません。
特に西洋医学の医薬品成分に違和感を抱かれる漢方薬、つまり東洋医学志向の方は、ことさら化学的なイメージを持って避けられるといったことがあるかもしれませんね。
もちろん、確かに化学的な合成によって研究開発された薬剤も多々ありますので、全てを否定するわけではありませんが、実際にはかなりの成分が天然の植物から取り出された成分(単離と言います)であることが多いのですね。
それはつまり、東洋医学の漢方薬の実績から得て特定された成分が多いということなんです。
結果的に有効性が特定された成分は単一な化学名になり、馴染みのないカタカナな成分名でイメージが悪くなってしまうのかもしれません。
今回は、その辺りを身近な成分で分かりやすく解説してみましょう。
甘草エキス
さていきなりですが、「甘草」という植物があります。
漢方生薬や植物にあまり馴染みのないユーザーさんは、初耳の方もおられるかもしれません。
こんな植物。
※日本漢方生薬製剤協会
https://www.nikkankyo.org/seihin/shouyaku/03.htm
この植物の乾燥物を用いた漢方生薬でいえば、“甘草湯”や“安中散”などが有名です。
ただ、実は皆さんにとっては生薬よりももっと身近なところでよく使われており、読んで字の如しで非常に甘味が強いことから、醤油や漬物・味噌に甘味料として昔から使用され、飲料の添加剤としても広く使用されています。
その甘味は砂糖の150倍とも言われており、低カロリーな糖質として活用されてきました。
で、生薬としては、代表的に以下のよう効能があるとされています。
・喉の痛み
・口内炎
・せき止め
他にも、他の生薬との組み合わせで肝臓の機能や、中耳炎・皮膚化膿症の改善など、多岐に渡る効能を有していると言われています。
とはいえ、だからとたくさん服用すれば良いというものでもなく、過剰摂取すると副作用として血圧上昇や偽性アルドステロン症などの要因になると言われ、1日の接種上限は甘草として7.5g(グリチルリチン300mg)とされています。
グリチルリチン
ここまでは生薬としてのお話でしたが、こうした効能を持つ甘草に含まれている主たる有効成分がきちんと分析されており、それが皆さんも一度は化粧品で目にしたことのある成分名「グリチルリチン」です。
漢方薬として使用される甘草の乾燥物中に含まれているグリチルリチン酸はおよそ4%で、厚労省の規定では2%以上含まれているものを医薬品として承認しています。
上でもあげた痛みを緩和する効果や消炎効果を有することから、西洋医学のお薬に使われる場合はこの単離して精製されたグリチルリチン酸を用い、かぜ薬や胃腸薬・鼻炎薬・点眼薬などに広く活用されています。
他にもある種のアレルギー作用にも有効性の報告があり、抗アレルギー剤としても臨床が進んでいます。
というわけでようやく化粧品の話題にたどり着きましたが、これがスキンケアコスメに非常によく配合されているグリチルリチン酸で、水によく溶けるように改造された「グリチルリチン酸2K」の表示名称は、あまりにも有名な成分ですね。
スキンケア化粧品はお肌のコンディションを整えるのが一大使命ですので、全ての化粧品とまでは言わないまでも、大半の化粧品に当たり前のように配合されているのが、この甘草のエキスに主成分として含まれているグリチルリチンだったのですね。
以前にもtwitterでつぶやきましたが、昔から私達化粧品開発の技術者も、口の中に口内炎ができたり、唇が荒れたりすると実験台に置いてあるコレを手にとってちょちょっと塗布して治していました。
傷になっている部分や唇が割れていると結構シミるのですが、これが効果があると言っては塗布して治していたものでした。
まとめ
というわけで、今回は美容成分の背景についてお話してきましたが、こうしてユーザーの皆さんにとっては化粧品に表示されているカタカナな有効成分名はなんだか化学的な印象を持ってしまうかもしれませんが、元を辿っていくと東洋漢方に由来する生薬に含まれる有効成分から派生している成分も多くあり、つまり植物に含まれている成分が広く活用されているのですね。
実はこれは香料の世界でも顕著で、「合成香料」と言われて警戒されることも多いのが現状ですが、ほとんどの香料は動植物由来の精油に含まれている成分から単離され、化学的な手法を用いて作られているのがほとんどなのですね。
こうして考えていくと、理解が難しいからとカタカナな成分名を勝手に避けられていることも多いのですが、かなりのところで誤解してしまっていることが多いという、今回の話題でした。
最後に、香料の世界でもっとも分かりやすい化学名をあげて終わりにしましょう。
皆さんもよくお口にする甘~いバニラアイスの、「バニラ」。
もちろん、多くのスイーツにも利用されている魅惑的な甘い香りの植物の名前で、その種子がバニラビーンズです。
これって成分名でいえば「ワニリン(vanillin)」またはバニリンで、香料として広く使われています。
化粧品にはほとんど使われませんが、香料名で“バニリン”って表示されている化粧品があると合成香料と揶揄されて、避けられるのかもしれませんね。
ちなみにバニラは甘いと思い込んでおられるユーザーさんがほとんどなのですが、全く甘みなどなくむしろ苦いことをお伝えして、今週は終わりましょう。
香りの記憶からくる思い込み効果、面白いですね。
ではまた次週。
by.美里 康人