今や色んなヒアルロン酸があります。
何がどう違う?
効果はどれが高い?
そういえば種類あったね
保湿の代表成分といえば「ヒアルロン酸」。
もう、配合されていないスキンケアコスメを探すのも難しいほど、オーソドックスな成分ですね。
でも、皆さんもご存じのように、このヒアルロン酸も色んな種類のものが開発され、各社アピールポイントとして差別化をされているところもちょくちょく見掛けるかと思います。
でも、あらためて問いかけられると、いったいどれだけの種類があって、選ぶべきはどれなのでしょう?
そういわれてみれば、ヒアルロン酸の種類をきちんと整理したものを見たことがなかったので、今回はまとめてみようと思います。
もちろん、何がどう違って目的は何なのか?も解説していきます。
と、その前にヒアルロン酸っていったい何者なのか、きちんと復習をしておきましょう。
ここをしっかり理解しておかないと、この先の解説で意味が分からなくなってきますので、ここ大事ですね。
ヒアルロン酸とは、化学的に言えばアセチルグルコサミンとグルクロン酸という二つの糖がくっついた(二糖と呼びます)ものを基本として、それが真っ直ぐなカタチで多数連なった高分子(ポリマー)です。
その分子量は、生体内でおよそ80万~200万程度で存在していると言われています。
さてここで、この「分子量」についてきちんと学んでおきましょう。
200万なんて言われると凄い大きいと感じてしまうので、実はここは重要なポイント。
まぁ、もちろん高分子なので大きい分子であることには違いないのですが、基準が分からないとイメージできないですよね。
ここ、実は私達のような化粧品技術者でも、知らない方が多かったりします。
もしこの記事をご覧になっている研究者さんで、「うっ・・・;」とドキっている方はおられませんか?(笑)
では解説。
上で書いた二つの糖が下の画像ですが、このひとつの分子で分子量は379で、自然に存在する状態では最小が411と言われています。
これがまず基本の分子量です。
アミノ酸の分子量がだいたい100~200の範囲程度ですから、アミノ酸がふたつくっついた程度の大きさという感じでしょうか。
ちなみにいえば、水(化学式:H2O)の分子量は18です。
ということは、最大の200万という分子量の大きなヒアルロン酸で、およそ5,000個が連なっているとイメージすれば良いわけです。
80万の分子量のヒアルロン酸は、およそ2,000個が連結しているんですね。
皆さんもこれほどの高分子成分は皮膚の中に入っていかないことは容易に分かるでしょうから、基本的にこれは角質層の深部に浸透していくのはムリだと理解できると思います。
ここは後ほどの解説と繋がってきますので、きちんと理解しておいて下さいね。、
まとめてみる
では、ヒアルロン酸の種類をざっと書き並べてみました。
化粧品の表示名称で整理しています。
①ヒアルロン酸Na
これは一般的な水溶性のヒアルロン酸で、分子量が120万~200万程度のものが化粧品にはよく使われています。
でもちょっと不思議ではありませんか?
Na+(ナトリウム)がくっついていますね。
ということは、これは実はマイナスの電荷をもったアニオンなんですね。
実際には、生体内でも水に溶けた状態では「ヒアルロン酸」というカタチではなく、カウンターイオンがくっついてポリアニオン状態になっていますので、こういう構造になっています。
なので実は「酸」とついていますが、酸ではありません。
②加水分解ヒアルロン酸
こちらは、①のヒアルロン酸を分解して分子構造を小さくしたものです。
これもさらにいくつかの種類が出ていますので、後ほど個別にさらに詳細を解説します。
③ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルトリモニウム
これはヒアルロン酸をカチオン化したものです。
分子量は50万~80万程度にされていますが、それを化学的に修飾してカチオン化してあります。
その目的は、普通のヒアルロン酸だと水に流れて皮膚から落ちてしまいますが、吸着性を高めてあります。
水で洗い流す製品ですとせっかくのヒアルロン酸が流れ落ちてしまいますし、スキンケア製品でも汗などでいずれ流れてしまいますので、皮膚にしっかりとヒアルロン酸が残って接着してくれるように改良されたものですね。
少なくても、石けんやシャンプーといったアニオンの洗浄剤で洗うまでは皮膚の上に残ってくれるという優れた成分です。
カチオン性なので、皮膚に対してリスクはないのか?といった議論はありますが、正確なことを述べられないのでここでは議論しないでおきましょう。
④カルボキシメチルヒアルロン酸Na
ヒアルロン酸の保水性能をさらに増強させるために、カルボキシル基を導入したものです。
分子量は80万~120万程度とされています。
普通のヒアルロン酸の3倍の保水力を有するといわれ、メチル基がついていることで水を離しにくい性質も応用されています。
⑤加水分解ヒアルロン酸アルキル(C12-13) グリセリル
こちらは、ヒアルロン酸が水溶性であることを解決した、疎水基(油性物質)をくっつけたものです。
親油性を持たせた方が角質層へのなじみ性はよくなりますし、ヒアルロン酸もおよそ1万以下の低分子のものをくっつけてありますので、角質層深部への浸透性を改善する試みで開発されました。
また、水や汗などで簡単に落ちてしまいにくいのも利点ですね。
美容オイルといった、油性の化粧品にも配合が可能になっています。
⑥アセチルヒアルロン酸Na
⑤のヒアルロン酸ほど油性は強くありませんのでオイルには溶けませんが、少し油性の性質を付加して皮膚なじみ性と密着性を改善したヒアルロン酸で、資生堂さんが開発した成分です。
分子量は15万程度になっています。
普通のヒアルロン酸のよりもベタつきが少ないと言われています。
ただどうでしょう?
保湿性能が2倍と言われていますが、分子量が普通のヒアルロン酸よりもうんと小さいため、保水力は弱いのではないかと思うのですが・・・。
ベタつきが少ないのも、それが原因では???
⑦ヒアルロン酸クロスポリマーNa
こちらは、ヒアルロン酸をさらに3Dで架橋させて高分子にした立体ヒアルロン酸と言えば良いでしょうか。
もともとのヒアルロン酸の分子量は分かりませんが、7,000個の分子をポリマー化さているそうですので、280万程度の分子量と推定されます。
被膜性を強くしてあり、シワ改善やお肌のリフティングといった効果に期待された成分です。
⑧ヒアルロン酸ジメチルシラノール
こちらはヒアルロン酸にジメチルシラノールというケイ素系化合物をくっつけたもので、皮膚なじみ性と保湿効果を高めた成分になります。
皮膚内で立体的に補強されることでアンチエイジング効果を期待した素材ですが、注射などで導入するのならまだしも、まずそこまで到達できるのか疑問に思います。
おそらくこれは美容外科向けに開発されたものではないかと感じます。
ということで、他にも同じヒアルロン酸でも皮膚内の酵素(ヒアルロニターゼ)で分解されにくいものであったり、ヒアルロン酸Kといった目的のよく分からないものもあったりします。
低分子ヒアルロン酸って?
さて、前項の②でも記しましたが、もともと高分子で皮膚の深部には入らないと言われてきたヒアルロン酸を、いわゆる分子を小さくしてできるだけ角質層の深部に届くように改善された低分子ヒアルロン酸は、いくつかの種類があります。
いわば、その分子量によって種類があるということです。
この表は私達が原料として購入するキッコーマンバイオケミファ社から提供されるヒアルロン酸の一覧表ですが、分子量がもっとも大きい200万クラスから、最小では5,000まで揃っています。
ではこの中で、低分子と言えるのはどの辺りでしょう。
ここは何をものさしにして低分子とするか基準があるわけではありませんので、判断は私達技術者にゆだねられています。
それで同じくキューピー社から提供されるヒアルロン酸をみれば、なんとなくその指針の全体像が見えてきます。
こちらのメーカーさんでは、一般的なヒアルロン酸は50万~80万程度にコントロールされてあり、加水分解することで低分子化したものが「ヒアロオリゴ」と呼ばれて1万程度になっています。
最初に説明した分子の考え方でいうと、だいたいヒアルロン酸が「25個」くらい連なっていることになりますね。
これをひとつのものさしとするならば、キッコーマン社のは「FCH-SU」「マイクロヒアルロン酸FCH」あたりが低分子ヒアルロン酸に該当することになりますね。
キッコーマン社のマイクロヒアルロン酸は、キューピー社の1万に対しておよそ半分程度に小さくなっています。
これで、ヒアルロン酸分子が「13個」あたりです。
このものさしについては技術者の間でも議論されるところと思いますが、ひとつの考え方として提言するとしたら、ここで最初に序論のところで書いたことが出てきます。
ヒトを含む生物に存在する状態の自然のヒアルロン酸は高分子状態であり、「80万~200万」と説明しました。
ということは、これよりも小さく分解したものを低分子としてよいことになりますね。
なので、上で説明したキッコーマン社・キューピー社のボーダーラインは、この辺りが基準になっていると考えればよいわけです。
とはいえ、よく化粧品メーカーさんのPRでは、これが角質層の深部に届く「浸透型」とアピールされているのを見かけます。
しかしながら、分子量400程度のものが10個以上も連なっているポリマー状態で、果たして浸透できるのでしょうか?
一般的には、皮膚浸透を果たす分子の大きさは、およそ500辺りが基準とされています。
う~ん。。。まだまだ皮膚浸透には大き過ぎる気がしますが(苦笑)
超低分子もある
ここまで低分子ヒアルロン酸の説明をしてきましたが、実はまだこれが全てではありません。
キューピー社さんでは、さらに低分子化された分子量が開発されています。
それは「HAbooster」と呼ばれ、分子量はなんと2,000平均となっています。
となると、ヒアルロン酸分子がわずか5個程度ということになりますね。
こうなると、皮膚浸透(角質層深部)も可能性が一気に現実味を帯びてきます。
キューピー社さんの資料をみると、シワ改善といったエビデンスも得られています。
そしてここまで書いてきて、果たして低分子ヒアルロン酸に意味があるのかについて、大きな課題がもうひとつあります。
それは「保湿性能」です。
ヒアルロン酸が1gで6リットルの水を抱えて保湿力が高いと化粧品によく利用されてきたのは、この高分子構造になっているからこそ、のことなんですね。
つまり、ポリマー状態になっていなければ、水分を持ちこたえることができないのではないか?という疑問です。
実際、私達の経験上でも、キッコーマン社のヒアルロン酸は、分子量が小さくなるごとに皮膚で感じる保湿能があきらかに下がってくることが分かります。
1万クラスにまでなると、化粧水に配合しても実感としてほとんど感じることすらできなくなります。
まぁ、使用感で確かめなくても、理論的に当たり前のことなんですがね(苦笑)
そう考えると、果たして低分子ヒアルロン酸が化粧品の成分として利があるのかどうかは、議論の分かれるところといえます。
少なくても、単純に保湿成分としての性能は高くないということだけは言えます。
だって、ソルビトール(果糖)程度の水分保持能なのであれば、こんなめちゃくちゃお高い原料を使う意味がなくなりますからね。
いずれのヒアルロン酸もその価格は、一般的な保湿成分としての糖類の100倍もしますから・・・。
生体内に浸透を果たせれば、皮膚の生理活性が高まってアンチエイジングとして・・・うんぬんかんぬんは、医療分野の専門であって私達の領分ではありませんので、正直私には分かりません。
注射するわけでもありませんし。
とはいえ、「HAbooster」を注射で経皮吸収させればどうなるのか、非常に興味がありますが。
今回はここまでにしておきましょう。
ではまた次週。
by.美里 康人