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乳液の基礎知識

乳液の基礎知識

美里康人

乳液の特徴と位置づけを学ぶページです

20年ほど前より、スキンケアには油分を避ける風潮が高まりました。
その理由としてあげられるのは、大まかには、以下の3点が要因としてあげられます。

  1. 油のベタつきが好まれず、さっぱりとした使用感が求められる傾向にあること
  2. 肌トラブルの原因が油成分に由来するケースが意識され始めたこと
  3. 鉱物油がお肌に悪いという業界のエセ情報を利用、それをウリ文句とした利益優先主義メーカーによってユーザーの末端にまで広めてしまったこと

しかしながら、昨今のメイクブームやそれに伴ったクレンジング技術の向上、環境の変化によるお肌の異常乾燥などの原因からお肌の保湿不足を訴える女性が多くなり、元来皮膚の持つ脂質や細胞間脂質を補給しなければ、内面の保湿が得られないことが定着しつつあります。

ただ油分が多めとなるクリームでは、高湿度シーズンや汗をかいてしまった際のベタつきにストレスを感じるユーザーが多いことから、乳液の需要は徐々に増えてきています。

また新鮮な使用感(ベタつきがない)をお肌に与えるシリコンを大胆に配合した乳液が、市場に導入されてきたことも、さらに市場拡大に拍車をかけていると考えられます。

その乳液は皆さんご承知の通り、クリームに比較して、油分が少量であることを特徴としたアイテムです。

お肌に対して化粧水や美容液では補うことができない油分を補給するのが目的ですが、水の中に油分を均一に配合する訳ですから、なんらかの界面活性剤が配合されていることになります。

おおまかに市場の乳液を分類し、それぞれの特徴や位置づけを見ていきましょう。

界面活性剤多量タイプの乳液

昔から存在する古いタイプの乳液で、いわゆるクリームから油・界面活性剤を減量した処方になっています。
一言で言えば”クリームを薄めた”と表現するのが、分かり易いかもしれません。
使用感も、クリームより水分が多い感覚を想像すればよいでしょう。

ユーザーからみれば、処方的にもクリームを薄めるだけで良いと考えがちですが、フォーミュレータ側は油分・界面活性剤が減量された上に、粘性が落ちることで液性に自由度ができるために、安定性を維持する処方技術を必要とします。

そのため、安定性をもとめるがゆえに、クリームと比較してもさほど変わりないほどの界面活性剤が使われているケースが多いようです。

ただ、時代のニーズの変遷とともに最近の新しい技術屋は、他の簡単なタイプの乳液製剤技術しか学ぶことがなくなってしまったために、このタイプの乳液を構築できる技術屋はほとんどいなくなってしまったのが現状です。

また市場ニーズもほとんどなくなってしまいました。

特に欧米においては、こうした細やかな製剤化技術を得意としないために、外資系にこのタイプの乳液は全くないと考えてよいでしょう。

しかしながら、肌なじみ性・浸透性・しっかりとした保湿感はこのタイプが優れており、未だこのタイプの乳液にこだわる熟年層は多いようです。

界面活性剤少量+ポリマータイプの乳液

昨今、市場のほとんどを占めている乳液がこのタイプです。

油分によるギラつきやベタつきを嫌う若年層市場ニーズに加えて、製造機械の進歩・ポリマーの進化と相まってこのタイプが市場に導入されました。
なにより、作り手側にとって製剤化が容易なこととその汎用性から、ここ10数年の間に一気に市場を席巻しました。

成分的には3%程度までの油分に、粘性と安定性を与えるための合成ポリマー、そして油分を配合するための少量の界面活性剤が配合されています。

通常、界面活性剤と合成ポリマーは、いずれも1%にも満たない程度となっています。
しかしながらこのタイプは、ユーザーの熟成によりポリマーの皮膚浸透性の悪さに不満を抱く声を耳にすることが多くなってきました。
また、美容液や化粧水にまで安易にポリマーを多用する技術屋が増えたことから、ポリマーの蓄積を感覚的に訴えるユーザーも現れてきました。

皮膚に対する悪影響はないとしても、角質層もしくは、より内部へのケアを考えた場合プラス効果をもたらすとは考えられないことは、問題視しなくてはならないのかもしれません。

界面活性剤フリー+高分子タイプの乳液

界面活性剤が、ユーザーバッシングにあっている現実に合わせ、合成ポリマーによる粘性液の中に界面活性剤を使わずに、少量の油分を単分散(機械の力を使って強引に油を分散させる)させただけの乳液です。

確かにこれであれば界面活性剤を配合せずに、油分を皮膚に取り入れることはできますが、油の粒子が油滴状のまま配合されているということは、油をそのままお肌に塗布したような使用感となり、皮膚への浸透性やなじみ感が感じられないために違和感は否めません。

また油のギラつきやベタつきが残るのもデメリットと言えます。

ノンオイルタイプの乳液

一般的に、サイエンティフィックには油分が配合されていないモノは、乳液とは言えないためにノンオイルの乳液は存在しないのですが、油分を嫌うユーザーに合わせた特殊な乳液として市場に存在しています。

しかしながら、液性が濁っている場合には必ず水に溶解しない素材が配合されている訳ですから、ほとんどの場合化学的に「油」とは呼ばないだけでシリコンが配合されているケースがほとんどと言えます。

シリコンは油とは呼びませんが、液性としては水に溶解しない素材で油と同様の性質を有していますので界面活性剤を必要としますし、化粧品科学的には油分と同様の扱いとされています。

そのため、厳密にはユーザーが持つ「ノンオイル」のイメージとはかけ離れていると言えるでしょう。


この他に、まれに界面活性剤も合成ポリマーも配合されていない天然系素材オンリーの乳液なども市場に存在しますが、まだまだ一般的ではありません。

また、同様の謳い文句で安全性をアピールするメーカーも市場を賑わせていますが、技術的に非常に困難なために、ほとんどが全くの偽りと考えて間違いありません。

皮膚本来の姿を追求してスキンケアの意義を考えた場合、環境・年齢などの変化によってコントロールしなくてはならない油分補給なくして、十分なコンディションを得られることはあり得ません。
それは皮膚の構造を見れば理解できるように、皮膚細胞には脂質が存在することで皮膚の柔軟性や水分の保持を担っているからです。
むしろ水溶性の保湿剤のみでケアする事が不自然な姿であると言えるでしょう。
環境の面から考えても、今後さらに皮膚の保湿は重要視されることが予測され、浸透性などにさらなる新しい技術が導入されることで、乳液というカテゴリーの需要は拡大していくものと考えられます。