美里康人
メーカー側にとっても、ユーザーのニーズを満足させる製剤上のテクニックも非常に高度な技術が要求されるために、クレンジングの質の良し悪しが、そのメーカーの資質を表していると言って良いでしょう。
特に中小メーカーの商品を見極める際には、まずクレンジングアイテムに目を向ける事が一つのコツです。
ではそのクレンジングについて、主にどういった処方構成になっているかタイプ別に勉強していきましょう。
水性リキッドタイプのクレンジング
近年、オイル成分で肌トラブルを招く肌質のユーザーが確認され、オイル成分を配合しない「ノンオイル」なるカテゴリーが確立されました。
このタイプは主には二つの基本形に分類することができます。
洗浄剤・界面活性剤使用型
水をベースに水に溶解する界面活性剤を配合してあり、界面活性剤の洗浄力や乳化力を利用してメイクを落とします。
水性溶剤型
水をベースに溶剤を配合してあり、メイクを溶かして落とすタイプです。
どちらのタイプも水がベースになっていること・油分を配合していないことをアピールして、油分を嫌うユーザーニーズに対して安全性を謳っています。
しかし、このタイプのクレンジングは、「肌への負担が少ない」という謳い文句を掲げてラインナップしているメーカーもみかけられますが、次のような問題点を抱えている製品が多いのが実情です。
- メイク落ちが悪いために残りやすい
- お肌への影響が大きい
- 皮膚への浸透性が良すぎ、リスクが大きい など
特に2.3.は、ユーザーにとっては、安全性を求めてリキッドタイプを選択しているにも関わらず、実際には他のタイプのクレンジングに比べて、むしろお肌への負担が大きい訳で、明らかにユーザーに偽った認識を植え付けているといえます。
ただし、マスカラ等、近年のポイントメイクには水ベース処方の物が増えており、こうしたメイク剤には水系のリキッドクレンジングが有効で、ポイントメイクリムーバーとしてはまだまだ市場性はあるようです。
オイルタイプのクレンジング
シュウウエムラ・DHC等に代表されるオイルクレンジングで、比較的価格が安く、他のタイプに比べてメイク落ちが良いのが特徴です。
このタイプは、読んで字の如くオイルがベースで、それに界面活性剤が10~20%配合されており、水分は0~数%程度になっています。
また、中には「100%油分のみ」のクレンジングも存在するようですが、これは水洗で落とすことはできません。
オイルタイプのクレンジングに界面活性剤が配合されている理由は、メイクとなじませた後に、水によって洗い流す必要があるために、水とオイルとメイクを乳化させる働きを担っています。
その他、メーカーによって使用されるオイルは天然油であったり、ミネラルオイルや合成エステル油であったりしますが、天然油の場合メイク落ちはあまり良くない傾向があります。
もともとこのタイプは、マスカラの落ちがあまりよくなかったのですが、最近はマスカラにも対応したアイテムも増えてきているようです。
オイルクレンジングのデメリットは、メイク落ちが良いかわりに油分が多い分水洗後に油感が残りやすいことです。
人によっては残留した油分によってニキビになりやすい人もおられるようですが、この後の洗顔できちんと油分を落とすことが重要です。
ミルクタイプのクレンジング
一般的に、このタイプのクレンジングは低刺激と言われることが多いのです。
しかしながら、それはおそらくスキンケアの乳液のように、感覚的に油分が少ないと認識されていることに他ならないのですが、実際はかならずしもそうとは言えません。
ここでミルクタイプのクレンジングが、市販に至った経緯を知る必要があります。
以前は、ポンズのウォシャブルに代表されるように、市場のクレンジングはクリームタイプが独占していました。ところが、このタイプは、直接、容器内へ指を入れてクレンジングを取り出すため、濡れた手で触れたクレンジングは、本来のクレンジング力が発揮できなくなってしまう等の問題が発生していました。
他にも頻繁なフタの開け閉めによって、水分がとんでしまうことで品質が劣化するなど、市場では多くの問題点が指摘されていました。
そこで、「手で触れずにポンプアップで手に取れる方法」を考え出されたのが、粘性の低いミルクタイプであった訳です。
こうした経緯から、ミルクタイプには一般的に2タイプの基本型処方が存在します。
低粘性クリーム型のミルククレンジング
クリームタイプのクレンジングの粘性をゆるくしたタイプで、油分・水分・界面活性剤の配合量はクリームタイプとそんなに変わりません。
一般的には
・油分:30~50%
・界面活性剤:5~15%
・BGや糖類などの保湿剤:5~10%
で、残りが水分となっています。
テクスチュアやメイク落ち・水洗後の感触・転相の存在など、クリームタイプとほぼ同じと考えて良いでしょう。
ですから、「油分が少なくて低刺激」との要望にはあてはまりません。
低オイル型のミルククレンジング
油分が少量で、界面活性剤が比較的多い目のタイプです。
粘性はカルボマーなどの高分子に依存していることが多いようです。
一般的には
・油分:5~10%程度
・界面活性剤:10~20%程度
・BGや糖類などの保湿剤:5~10%
・水溶性高分子:0.5~1%
で、残りが水分となっています。
油分が少ないことから、油成分にトラブルが起きやすい方に適合します。
ただし、その分メイク落ちを強化するために界面活性剤の配合量が多く、中には界面活性剤でトラブルが発生するケースも見受けられます。
中には界面活性剤の含有量が少ない物もありますが、この場合はメイク落ちが犠牲になっていたり、ふき取り専用になっているようです。
これらのタイプを見極めるには、使用感に加えて全成分の順位をよく観察する事で、ある程度の判断が可能です。
クリームタイプのクレンジング
最近は市場にこのタイプは少なくなってきました。
ユーザーの間では”油分が多い”という認識が定着し、昨今の油分を嫌う傾向からミルククタイプやジェルタイプに移行してきている方が多くなりました。
しかしながら、メイク落ちが良い、マスカラも落とせる、転相(メイク落ちポイント)がはっきり分かる等の理由から、まだまだ市場ニーズはあるようです。
特にハードメイク志向の方には、オイルタイプもしくはクリームタイプでないと物足りないと感じる方が多いようです。
また、毛穴や皮溝にメイクが残ることが問題視され出した今、再び、このタイプは脚光を浴びるかもしれません。
では、クリームタイプにみられる転相についてここで少し触れておきましょう。
下図に表すように通常クレンジングクリームを顕微鏡で観察すると、水と油の状態は牛乳などと同様にO/Wの乳化状態を形成しています。
*O/W(Oil/Water):水の中に油の粒が分散した状態で、外側に水が配置されている状態の事を表す。逆をW/Oと表す。
この状態では、図のように乳化の外側が水溶性成分であるために、主たる成分が油性成分で構成されているメイクとはなじむことができません。
ただしクレンジングクリームの乳化状態は、ギリギリのバランスになっており、すぐにW/Oの状態に変化するように処方構成を工夫してあります。
そのために、お肌の上でマッサージをしている間に水分が少しでも蒸発したり、メイク剤がクリーム中に溶け出してきたりすることによってO/Wのバランスが崩れてW/Oへと変化します。
そしてW/Oになったことによって外側に出てきた油分がメイクと馴染み始めて、テクスチュアも滑らかになりツルツルした状態でマッサージとクレンジング行為が容易になります。
この状態になったことを「クレンジングの転相」と呼んでいます。
そして十分にメイクと馴染んだ後に、再度お湯や水を加えることによって再びO/Wへと変化し、水に馴染んでお肌から洗い流されていくわけです。
これを「再乳化」と呼んでいます。
ここで気付かれた方が多いと思いますが、微妙な水分バランスが転相の重要なポイントとなっていることから、同じクレンジングクリームを使っていてもお肌や手に水分があったり、お風呂の蒸気の中で作業を行うと転相が遅くなってしまうことがあります。
“クレンジングクリームの転相は、お肌の温度で溶けることによる”という認識が一般的なようですが、こういうメカニズムによって起きていることを覚えておいてください。
この転相ポイントに関しては、個々のメーカーによって早い遅いがあったり、水洗時の再乳化がうまくいかなくて油が残ったり、という点に違いがあります。
この辺りがメーカーの製剤技術評価のポイントとなってきます。
クレンジングクリームは、大まかには
・油分が40~50%
・溶剤としての保湿剤が5~15%
・界面活性剤が5~10%
・水分が25~50%程度
で構成されています。
ジェルタイプのクレンジング
ジェルタイプのクレンジング料は、チューブ容器に入っているなど、そのゲル状の粘性が特徴で、オイルクレンジングのように垂れ落ちてこないことで使い勝手がよく、市場を席巻したクレンジング料です。
一般ユーザーには、クリームより安心して使えるとの認識が根強いようですが、実は様々な剤型があり、アイテムによってテクスチュアや機能・安全性も全く違った商品が存在するのが特徴です。
例えば、同じジェルでもオイルがリッチなタイプはクリーム並みのメイク落ちを発揮しますし、水溶性基材のみで構成されているタイプは満足にメイクすら落とせないものまで市場に存在します。
また、このジェルタイプのクレンジングは機能性の高い商品を開発するのが困難で、市場に存在するアイテムの中には機能が満足しない物も多いようです。
おおまかにジェルタイプのクレンジングをタイプ別に分けて説明していきます。
オイルジェルタイプ
ジェルクレンジングの中でも、これは比較的ディープなタイプでクリームタイプ同様、油と界面活性剤がリッチな成分構成をとっているのが特徴です。
そのためメイク落ちに優れ、水洗もしやすくクリーム同様に転相も存在します。
ただし転相のメカニズムは若干クリームと異なります。
この成分構成から考えると、ジェルだから油分が少なく(なく)低刺激との認識は成り立ちません。
当初、このタイプのクレンジングは、花王さんがで開発しキュレルブランドで大ヒットを収めましたが、数年後にお風呂で分離する・チューブから油がにじみ出てくる・湿気が多い場所ではクレンジング力が一気に下がる等、安定性に問題が発生したために何度も改良リニューアルを行いましたが、結果的に解決には至らずに市場からは撤退せざるを得なくなりました。
現在のキュレルは、違った処方構成に変更されています。
その他各社がこのオイルジェルタイプの開発にトライしましたが、結果的に温度によるジェルの変化は根本的な問題(界面活性剤の温度依存性)となることから、問題を抱えたまま市販されている、もしくはノンオイルタイプに妥協した処方になっているのが実状です。
なお、唯一資生堂がこの問題を解決したオイルジェルタイプを市販していますが、これは特許により市場独占をした形になっています。
処方構成としては、
・油分が30~40%
・界面活性剤が10~20%
・糖類・保湿剤が15~20%
・水分が10~20%
となっています。
他には、オイルクレンジングをゲル化剤で固めた形も市販されていますが、このタイプとはまた異なります。
界面活性剤+水溶性ゲル化剤タイプ
最近はこのタイプが市場に多くなっています。
油分がほとんど配合されていないために、クレンジング力は界面活性剤にたよっています。
そのためにクレンジング力はあまり強くなく、メイクがにじみ落ちてくる感覚はあまりありません。
その分、洗い流した後は油分が残ったような感覚はなく、洗いあがりはさっぱりとし、少々水分がある場合でも機能は果たすことができます。
ただしメイク残りには注意を必要とします。
このタイプは油分を使っていないために低刺激と謳っているケースも多いようですが、その分界面活性剤の配合量は非常に多いので、一概にそれは正しいとは言えません。
最近はシリコンや油分を少し配合してメイク落ちを良くしている物も増えているようです。
処方構成としては、
・水分が60~80%
・界面活性剤が10~20%
となっています。
※油分が配合されている場合は5%以下程度と考えてよいでしょう。
洗浄剤+水溶性ゲル化剤タイプ
“ダブルクレンジング不要”と謳っているゲルクレンジングは、ほとんどがこのタイプです。
しかしながら、クレンジング機能は洗浄剤にたよっているために、メイクに対するなじみ性は非常に悪く、日焼け止めやマスカラ・口紅などはほとんど落とすことができません。
また洗浄剤の配合量も洗顔料よりもはるかに少なく、本来の機能が達成できていないケースがほとんどといっても過言ではありません。
処方構成としては、
・水分が70~80%
・洗浄成分が5~10%程度
が一般的です。