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ヒアルロン酸って本当に保湿成分?

保湿成分とは

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美里康人

ヒアルロン酸は”ヒューメクタント
これってどういう意味だろう?

お題の「ヒアルロン酸」は保湿成分として知らない人がおられない程有名な成分ですが、これが本当に正しいのかはぁ?という面持ちでこの記事にこられた方は、申し訳ありません・・・。
今回の成分解説は、これが間違っているという話題ではありません。

ただ、実は本来の成分の性質をきちんと知ると、グリセリンといった保湿成分とは機能が異なることになるため、本来は異なる分類で考えないといけないという内容の解説です。
今回はそんな皮膚の保湿とそれぞれの保湿成分が担っているそのメカニズムの違いについて解説していきたいと思います。
これを正しく知ることは、結果的に製品に表示されている成分をみて、自分が目的としている製品であるかどうか判断のものさしになります。

気を持ち直して読み進めて頂きたいと思います。

保湿成分=モイスチュアライザーでいいの?

「保湿」という言葉を英訳すると、一般的には皆さんもよくご存じの通り「Moisturizing」となります。 なので、保湿剤・保湿成分は「Moisturizer(モイスチュアライザー)」となり、日常使われる言葉ではその中にヒアルロン酸も含まれているのは事実です。

でも・・・と難癖をつけるならば、実は「Moisture」「水分」という意味になって、少し意味の温度感がズレてきます。
もちろん、水分を保持するのだから保湿という言葉で相違ないじゃないかと指摘されればその通りですし、海外でこうして使ってもきちんと意味は通ります。

ただ、化粧品の成分が化学的に持つ性質・機能を正確に議論するシーンでは、全ての成分をモイスチュアライザーとひとくくりにしてしまうと、誤解が生じてしまうのです。
ですので、正しく化粧品の中身を見極めたいと考えるのであれば、それぞれの保湿成分が持っている本質的な機能をきちんと知り、性能を判断しなければなりません。

また、この話題の最後には同時に見極めないといけないことも説明していきますので、ひとつひとつ理解頂ければ一歩進んだ化粧品の見極めが可能になるかと思います。

実は機能毎に呼び方が違う

この記事を書こうと思ったキッカケになったのは、ネットでコスメリサーチをしていて久しぶりに、製品の説明の中に「エモリエント」という言葉をみつけたからです。

この言葉は、既にご存じの方もおられるかもしれません。
一般的には保湿成分としてひとくくりにされてしまっていますが、保湿成分の中でもグリセリンやヒアルロン酸といった保湿成分とは異なるメカニズムで皮膚の保湿を担っているため、異なる成分の分類としてきちんと説明しているというわけです。
このように、保湿成分の中でもそれぞれの成分が持つ性質によって保湿を担う機能が異なりますので、コスメ業界ではそれぞれに大きく分類分けがされています。

実は以前に研究者として弟子の「いろはね」クンが記事にしたためていますので、こちらを参考にしてみて下さい。

新米コスメ技術者のドタバタ奮闘記
・保湿成分の分類
https://sawayaka0302.hatenablog.com/entry/2020/12/10/070000

彼女が解説しているように、化粧品に使われる保湿成分はこういった機能を持つ成分を使い分けて皮膚の保湿性能を達成しているわけですね。

 ・モイスチュアライザー
 ・ヒューメクタント
 ・エモリエント

です。

今一度簡単にまとめるなら、こういうことになります。

【モイスチュアライザー】
その成分が接触しているところから水を集めてくる、集水機能を持つ成分
気体である空気中の水分も集める成分もある
一方で、皮膚表面に長時間留まっている場合、乾燥下では自身の周りに水分が不足してしまい、角質層深部の水分を引き寄せてしまうマイナス要因になるケースもある

モイスチュアライザー

【ヒューメクタント】
水分を呼び込む性質は持たないが、スポンジのように分子構造の中に水分を持たせてあげれば、それを離さず保持する機能をもつ成分
反面、これだけでは今以上の保水性能は得られず、時間の経過とともにいずれ水分は蒸発してしまって乾燥に至る

ヒューメクタント

【エモリエント】
油分が代表で、自身は水分とはなじまず集める機能もなく、加えて水とは結合しないため水分と保持する機能も持たないが、水分を持ったものを覆って水分が蒸発するのを防ぐバリア機能を持つ成分
ただし水分がない状態や不足状態下では、この成分だけでは保湿機能は得られないデメリットも持つ

エモリエント

代表的な成分で言えば、モイスチュアライザーグリセリン・DPG・BGといった多価アルコールソルビトールといった砂糖と同じような糖類がこれに該当します。
ヒューメクタントの代表が、お題に書いたヒアルロン酸
高分子な構造なので、その中に水分をため込むメカニズムということですね。
他には植物由来の〇〇〇ガムといったものもそうですし、〇〇〇多糖体なんていう表示名称になっているものも、この中に入ります。

そしてエモリエントはもう説明の必要もありませんね。
スクワランやナッツ系といった植物由来の油脂成分はまさにこれの大本命。
他にも、シアバターやワセリンといった固形・ペースト状の油脂も忘れてはいけませんし、もっと言えばセラミドもこの中に分類されます。

こうしたスキンケア理論は、こちらの絵が分かりやすいですね。

保湿成分とは

NOVスキンケア研究所(常盤薬品工業株式会社)
リンク先:https://noevirgroup.jp/nov/pages/basics-of-moisturizing.aspx

そして大切な「1+1=3」

さて、ここまでの記事ならばいろはねクンの解説とあまり変わりません。
今回のこの記事で大切なのは、これらの成分を保湿成分として単独でみて保湿の性能の良し悪しの判断にしてはならないという点です。
前回の記事では隠れた保湿成分の使い方の妙をお話しましたが、今回もある意味初歩的なな処方設計の妙と言えます。
ご家庭でキッチンコスメなどを手掛けているユーザーさんも、参考になると思います。

分かりやすく、一例をあげて解説していきましょう。

その昔、「尿素化粧水」なるものが流行りましたね。
流行の先駆けになった製品がありましたが、実にシンプルな処方として拡散しました。

全成分はこちら。

水、グリセリン、尿素

昔のメルマガで解説しましたが、この中の尿素は皮膚内の水素結合に影響を与えて皮膚の結合水と繋がる機能を持っていますので、これがまず保湿成分のメインになります。
いわゆる皮膚の軟化剤として、医薬品にも利用されている機能の成分です。

ただ、これだけでは周りから水分を集めてくる機能はありません。
そこで水分を集める機能を持つモイスチュアライザーの役目を果たす、グリセリンを配合するわけです。

グリセリンが水を集めてくる
 ↓
尿素が皮膚内の水分と結合させて離さないようにする

ストーリーがひとつ増えましたね。
でも、実際にはこのストーリーだけでは、不十分なのです。

グリセリンが水を収集
 ↓
尿素が皮膚内の水分と結合
 ↓
乾燥がひどいエアコン下などでは、時間とともに水分蒸発が上回る
 
×NG

ということは、さらにこれを補強する成分のヒューメクタントであるヒアルロン酸Naを入れてあげましょう。

グリセリンが水を収集
 ↓
尿素が皮膚内の水分と結合
 ↓
ヒアルロン酸がその水を抱えて保持

これでまたストーリーが増えて長時間の間水分を保持してくれますので、完璧。

いえいえ。
今度は、これにさらに極寒気などで湿度がほとんどない状態や、エアコン掛けっぱなしだとヒアルロン酸もカピカピになってきて、耐えられなくなります。
そうすると、今度は毛細管現象でグリセリンが皮膚内の奥の方の水分も集めてくることになりますので、一度乾燥が始まるとさらに止められなくなります。

これをストップするのが、エモリエント成分。
フタをしてあげてこの集めてきて、保持した水分が蒸発しないように維持すると、これでいよいよ完璧ということになります。

こうしてストーリーを考えていくと、どれがひとつ欠けても不十分なことが分かると思います。
つまり欠損している、もしくは不十分な製品が、コスパ重視な製品ということになるでしょうか。
そして、それぞれの機能を持つ成分が複数ある方が良いに決まっています。
こうして3Dで保湿をみていくと、各々の成分がどう関わっているのかが見えてきますね。 前回解説の成分リサーチと合わせると、結構色んなことが分かってくるかと思います。
もちろん、最後のエモリエント成分は化粧水には含まれていないものが多いでしょうから、ここは乳液やクリームが担う役目と考えれば良いわけです。

おまけ

さて、ここまで解説してきて一例にとりあげた尿素化粧水ですが、こうしてみていくと保湿ストーリーとしては不十分であることが判明しましたね。 納豆成分やオクラ成分みたくトロミをつける成分などもヒューメクタントとして働いてくれますので、ヒアルロン酸も含めそういった成分で補完してあげる必要性がありそうです。

で、せっかくなのでここでおまけとして、こういった設計で作られた尿素化粧水の性能はどうなのでしょうか?

これはずっと以前のメルマガでも触れましたが、これはNGと考えるのが良いでしょう。なぜなら、上で解説した通りに尿素の機能をグリセリンだけでは補えないだけでなく、そうなると尿素はどんどん角質層で濃度が高くなり、次々に皮膚内の結合水部分に作用し続けてしまうためです。
そうなると今度はきちんと繋がっていた皮膚のタンパク質が切れ始め、皮膚が損傷を受け始めることに繋がっていきます。
これが結果的に尿素化粧水を使い方を誤るとさらに過乾燥を招くという理由です。
これはこの後に流行したミョウバン化粧水も同じです。

これを防ぐには、エモリエントの役目をさせるワセリンを上から塗布するという方法もありますが、それぞれを単独で順次塗布することでイメージ通りになるか?と問われると、疑問が残ります。
ワセリンは強い油成分で水分とは一切なじみませんので、果たしてその前に塗布した化粧水となじむかどうかは疑問ですし、水を追い出してしまう可能性も否定できません。
ここは水と油とが一緒になった製剤にするのがもっとも理に叶っていると言えます。

これは大手ブランドさんの尿素ハンドクリームをみることで分かりますね。
非常にたくさんの油分が配合されたクリームで、きちんと水分を隠蔽して尿素の効果を最大限に活かす工夫がなされています。
やはり皮膚が最終的に損傷を受けてスキンケア理論が破綻しないよう、多角的に考えて設計されているというわけです。
それでもあまり長期間使い続けると手を洗う際にセラミドが減少していきますので、一時的な手荒れの修復のためのハンドクリームと考えるのが良いかと思います。
ご参考までに。

by.美里 康人

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